束(数学)(読み)そく(英語表記)lattice

翻訳|lattice

日本大百科全書(ニッポニカ) 「束(数学)」の意味・わかりやすい解説

束(数学)
そく
lattice

順序定義されている集合Lがあって、Lの任意の二元a、bからなる集合{a,b}がつねに上限下限をもつときLは束であるという。ここに、たとえばuが{a,b}の上限であるとは、uがLの元であってu≧a,u≧bが成り立ち、しかもx≧a,x≧bなるLの元xに対してはu≦xが成り立つことをいう。別のことばでいえば上限とは最小上界である。同様に、下限とは最大下界である。

[足立恒雄]

束の例

(1)一つの集合Mをとり、Mの部分集合の全体をLとする。Lの元a、bに対してab(aはbの部分集合)のときa≦bと定義する。この順序の定義によりLは束をなす。a、bをLの任意の二元とするとき、{a,b}の上限はa∪b(a、bの和集合)であり、下限はa∩b(a、bの共通部分)である。

(2)Nを自然数全体の集合とする。自然数aが自然数bを割り切るとき、a≦bと定義すると、Nはこの順序の定義により束をなす。任意の二つの自然数a、bに対して、{a,b}の上限はa、bの最小公倍数であり、下限は最大公約数である。

 束という概念は非常に幅の広い基本的な概念であって、いろいろな分野に登場する。

[足立恒雄]

束の基本性質

束Lにおいて{a,b}の上限を(集合の場合の類似で)a∪bで表し、下限をa∩bと表すことにすると、次の性質が成り立つ。

(1)べき等律 a∪a=a, a∩a=a
(2)交換律  a∪b=b∪a,
       a∩b=b∩a
(3)結合律 (a∪b)∪c=a∪(b∪c),
        (a∩b)∩c=a∩(b∩c)
(4)吸収律 (a∪b)∩a=a,
       (a∩b)∪a=a
 逆に、ある集合Lにおいて二つの演算∪、∩が定義されており、上記の交換律、結合律、吸収律の三法則が成り立てば、Lはa∪b=bのときa≦bと定義することによって束となる。a∪b=bはa∩b=aと自然に同値となる。この束の定義からわかるように、Lにおけるある定理において∪と∩とを入れ換えれば、もう一つのLの定理が得られることは明らかで、この事実を双対性(そうついせい)という。射影幾何学の双対性は束の双対性として説明される。応用目的に応じて、種々の束がある。なかでも、完備束ブール束(ブール代数)、モジュラー束など固有の深い研究がなされている。

[足立恒雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例