新産業都市(読み)シンサンギョウトシ

デジタル大辞泉 「新産業都市」の意味・読み・例文・類語

しん‐さんぎょうとし〔‐サンゲフトシ〕【新産業都市】

昭和37年(1962)制定の新産業都市建設促進法によって指定された区域。また、その制度。地域格差是正大都市への人口や産業の集中化防止、都市機能の地方への分散などを目的とした。平成13年(2001)、同法の廃止により終了。新産都市

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精選版 日本国語大辞典 「新産業都市」の意味・読み・例文・類語

しん‐さんぎょうとし ‥サンゲフトシ【新産業都市】

〘名〙 昭和三七年(一九六二)の新産業都市建設促進法に基づいて指定された区域。地域格差の是正、大都市の過大化防止、都市機能の地方分散などを目的として定められ、道央・八戸・秋田湾・仙台湾・常磐郡山・新潟・富山高岡・松本諏訪・岡山県南・中海・徳島・東予・大分・日向延岡・不知火有明大牟田が指定された。同法は平成一三年(二〇〇一)に廃止。新産都市。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新産業都市」の意味・わかりやすい解説

新産業都市
しんさんぎょうとし

新産業都市建設促進法(昭和37年法律117号)によって、地域開発工業開発の対象として指定された都市をいう。当初その指定は13区域であったが、その後、秋田湾、中海(なかうみ)の2区域が追加され、1980年代以降は15区域となっている。道央(北海道)、八戸(はちのへ)(青森県)、秋田湾、仙台湾(宮城県)、常磐(じょうばん)・郡山(こおりやま)(福島県)、新潟、松本・諏訪(すわ)(長野県)、富山・高岡(富山県)、岡山県南、中海(鳥取・島根県)、徳島、東予(愛媛県)、大分、日向(ひゅうが)・延岡(のべおか)(宮崎県)、不知火(しらぬひ)・有明(ありあけ)・大牟田(おおむた)(福岡・熊本県)がそれである。

 最初、この新産業都市指定の要件としては次のことが指摘されていた。

(1)1000ヘクタール以上の工業用地と300ヘクタール以上の住宅団地、および必要量の工業用水

(2)計画目標年次に人口20万、工業出荷額3000億円の線が達成可能であること。

(3)工業誘致計画進行の可能性と幹線交通施設の整備計画があること。

 新産業都市計画は、同じ年の全国総合開発計画(全総)に示されている「工業の地方分散」を推し進めようとしたものである。その限りでは、既成工業地帯に過度に集中・集積した工場を、計画的に全国規模で分散し、再編することによって、工業を軸とした諸開発を整序するものであった。確かに、前述した要件が厳しく査定され、指定された都市で諸開発が全面的、計画的になされていたならば、開発秩序は保たれたかもしれない。しかし現実には、諸省庁、自治体などの思惑が入り乱れ、妥協の結果が、最終的には15の指定都市として示されたのである。そして、太平洋ベルト地帯を軸とする拠点工業開発の強力な流れに巻き込まれ、それに利用されることになる。

 新産業都市をめぐる問題としては次のことが留意されてよいだろう。新産業都市のなかでも、とりわけ活発に工業開発が進められ、工場立地が盛んになされたのは、太平洋ベルト地帯に位置している地域であって、日本海沿岸地域、あるいはベルト地帯から遠く離れた地域では、開発はあまり進められなかった。したがって、工業生産の伸びも、人口の伸びも、新産業都市全体でみると、全国平均よりもむしろ低い水準を示すことになる。ところで、開発がとくに急速であった新産業都市、たとえば水島地区を抱えている岡山県南をみると、そこでは確かに工業生産の伸びは著しかったが、均衡のとれた社会開発は、ついに実現されなかった。一方では新しく公害が生み出され、他方では地元税収入が地域社会とそこの住民に十分還元されることなく、生活環境の整備が大幅に立ち後れることとなった。

 さらに新しく立地した新産業、大企業は、かならずしも地元の産業と経済とを調和ある発展に導きはしなかった。こうして新産業都市は、太平洋ベルト地帯における拠点工業開発に「つまみ食い」されたといってよいだろう。1960年代の高度成長は、新産業都市全体に、その「後始末」を押し付けながら、一部の新産業都市をその主要舞台の一つとして利用し、その後の日本経済を新しい段階に引き上げたのである。

 しかし、1990年代に入ってみると、次のような事態が明らかとなった。北海道苫小牧(とまこまい)東部開発(全総の一つ)にみられたように、大規模工業開発は失敗した。一方、IT(情報技術)関連産業の展開は、重厚長大産業とは違った工場立地を可能としたので、新産業都市の枠にとらわれない産業開発が可能となった。こうして、地域格差の是正、大都市の過大化防止、都市の地方分散といった新産業都市の基本方向は、有名無実に近いものとなった。

[元島邦夫]

『島崎稔・安原茂編『重化学工業都市の構造分析』(1987・東京大学出版会)』『鈴木茂著『産業文化都市の創造――地方工業都市の内発型発展』(1998・大明堂)』


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改訂新版 世界大百科事典 「新産業都市」の意味・わかりやすい解説

新産業都市 (しんさんぎょうとし)

大都市における人口と産業の過度の集中を防止し,地域格差の是正と雇用の安定を図り,国土の均衡ある開発発展と国民経済の発展に資することを目的とする〈新産業都市建設促進法〉(1962公布)に基づき指定され,建設された工業開発の拠点都市。略して新産都市ともいう。

 新産業都市には,国が建設に必要な財政上の措置等を講ずる努力をするなどの優遇措置のほかに社会資本に対する巨額の財政投資が期待されたため,予備調査と同時に全国の44地区から立候補があった。しかし,最終的に,1964年に道央,八戸,仙台湾,常磐郡山,新潟,富山高岡,松本諏訪,岡山県南,徳島,東予,大分,日向延岡,不知火有明大牟田の13地区が,65年に秋田湾,66年中海の2地区の計15地区が指定された。一方,1962年に全国総合開発計画(全総)が策定され,翌63年に行政措置として6地区が工業整備特別地域(工特地域)に指定された。64年当該地区の要請により新産業都市建設促進法とほぼ同内容の〈工業整備特別地域整備促進法〉が公布された。

 新産業都市は構想段階では,大規模工業開発拠点を全国に数ヵ所重点的に建設するものであったが,法制化の段階で相当規模の拠点と修正されたため,前述のように15ヵ所も指定された。このため工場用地や社会資本を整備したのに,企業誘致ができなかった地区も多い。また企業誘致ができても,重化学工業中心の工場であったため,公害問題をひき起こした地区も多い。計画の初年度は1964年度,目標年次は75年度という地区がほとんどであったが,人口増加率,工業出荷額の伸び率等でみて,必ずしも予定どおりの成果をあげたとはいいがたい地区が多かった。
国土総合開発
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百科事典マイペディア 「新産業都市」の意味・わかりやすい解説

新産業都市【しんさんぎょうとし】

新産業都市建設促進法(1962年)に基づいて指定された都市。同法は全国総合開発計画(全総)の基本構想である拠点開発方式の実施法の一つで,産業の立地条件と都市施設を整備し,その地方の開発発展の中核となる新産業都市の建設促進を目的とする。道央,秋田湾,新潟,富山・高岡,中海,東予,大分など15地域が指定された。各地域で企業誘致が進んだが,公害の発生もあり十分な成果がなかった地域もあった。通産省は新産業都市に代わる高度技術集積都市(テクノポリス)計画を構想,人口の定住化,IC産業など無公害産業の誘致による地域経済の振興をめざしている。高度技術工業集積地域開発促進法(テクノポリス法,1983年)で,函館,長岡,浜松,富山,宇部,西播磨,長崎など18地域が挙げられた。→国土総合開発

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「新産業都市」の解説

新産業都市
しんさんぎょうとし

1962年(昭和37)に公布された新産業都市建設促進法にもとづいて指定された工業開発の地域拠点。地域格差の是正と雇用拡大を目的に構想され,高度経済成長下の地域開発のシンボルとして,64年から66年にかけて全国で合計15地区が指定をうけた。多くは製鉄や石油化学を主体とする臨海工業地帯をめざしたものの,工場誘致に失敗したり公害問題に悩まされた地域も少なくなかった。2001年(平成13)3月末廃止。

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世界大百科事典(旧版)内の新産業都市の言及

【国土総合開発】より

…すなわち,都市の過大化を防止し,地域格差を縮小するために工業の分散が必要であるが,〈工業の分散に当たっては,国民経済全体からみて開発効果を最大にするよう考慮し〉〈工業の適正な配分は開発効果の高いものから順次に集中的になされなければならない〉というのである。このような趣旨から考え出されたのが,拠点開発方式であり,その具体化が新産業都市であった。 拠点開発方式とは,既成の大集積地とそれ以外の地域の大規模な開発拠点を関連させ,その他の機能を有する中規模,小規模拠点を設定し,これらをじゅず状に連結させ,周辺の農林漁業にも好影響を与えるという考え方で,〈成長の極pôle de croissance〉と〈波及効果spread effect〉の組み合わさったものであった。…

【地域開発】より

…このため空前の工場誘致合戦が行われた。 拠点開発は当初,四日市市や京葉地域など太平洋ベルト地帯で行われていたが,やがて政府は62年第1次全国総合開発計画を発表し,〈拠点地域〉を新産業都市と工業整備特別地域と名づけて,全国に指定をすることとした。このため全国から44地域が立候補し,史上空前といわれる陳情合戦が行われ,結局,次の地域が指定された。…

※「新産業都市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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