政談(読み)せいだん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「政談」の意味・わかりやすい解説

政談
せいだん

荻生徂徠(おぎゅうそらい)の著書。4巻。江戸幕府の8代将軍徳川吉宗(よしむね)の諮問に応じ、幕府政治の改革すべき点についての徂徠の意見を述べたもので、著述の時期は不明であるが、1725年(享保10)ないし27年ごろと推定される。内容が政治上の機密に関係しているため、徂徠は門人にも見せず、自筆のまま上呈する旨を末尾に記しているほどで、公表されることはなかったが、18世紀後半になると、写本がつくられて、しだいに世間に流布し、幕府倒壊後の1868年(明治1)には京都で出版されている。このように広く読まれたのは、幕府政治のもとでの社会の実情と、その問題点、ならびにその解決策についての、的確な認識と優れた見識が示されているためで、現在では江戸時代史研究の重要な史料の一つとされている。徂徠の改革案の主眼は、戸籍を整備して、武士や庶民を土地に定着させること(土着論)と、身分に応じた生活水準の規制(制度論)とに置かれており、一見すると保守的であるが、そのなかには日本の社会の本質についての洞察が含まれており、その点で近代の日本を準備する役割を果たしたとみられる。

尾藤正英

『辻達也・丸山真男他校注『日本思想大系 36 荻生徂徠』(1973・岩波書店)』

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精選版 日本国語大辞典 「政談」の意味・読み・例文・類語

せい‐だん【政談】

[1] 〘名〙
① その時の政治に関する演説や議論。
※文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉二「純精の理論に非ずして過半は政談を交へ」
② 政治、裁判などを題材とする講談。「大岡政談
[2] 江戸中期の政治論。四巻。荻生徂徠著。享保一二年(一七二七)頃成立幕政危機に際し、その問題点と対策を論じ、参勤交代の廃止、武士と町人百姓との分限に即した諸制度の確立、銭貨の大量鋳造、人材の登用などを幕府要人の諮問に答える形式で説く。将軍徳川吉宗に呈上したものと伝える。

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百科事典マイペディア 「政談」の意味・わかりやすい解説

政談【せいだん】

荻生徂徠の著。8代将軍徳川吉宗に呈した幕政に対する意見書。4巻。幕府要人の諮問に応ずる形式で記され,元禄〜享保期(1688年―1736年)の幕藩体制内の具体的諸問題に即して,経済論・政治論を展開,武士の計画的農村配置,身分制度の確立などを説いている。成立は徂徠が吉宗に謁見を許された1727年前後と考えられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「政談」の解説

政談
せいだん

江戸中期,荻生徂徠 (おぎゆうそらい) の著した政治・経済論
享保年間(1716〜36)の成立。4巻。8代将軍徳川吉宗の諮問にこたえた意見書で,幕政改革のため貨幣経済の発達抑制・武士の帰農・参勤交代の弊害などを説いた。

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デジタル大辞泉 「政談」の意味・読み・例文・類語

せいだん【政談】[書名]

江戸中期の政治論。4巻。荻生徂徠おぎゅうそらい著。享保年間(1716~1736)成立。幕政の危機について幕府要人の諮問に答える形式で、政治・経済・社会の問題点と対策を説いたもの。

せい‐だん【政談】

そのときの政治・政局についての議論や演説。「政談演説会」
政治や裁判などを題材にした講談。「大岡―」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「政談」の意味・わかりやすい解説

政談
せいだん

荻生徂徠の著。4巻。享保年間 (1716~36) に成稿。江戸幕府要人の諮問に答える形式で述べられた幕政改革についての意見書で,政治論,経済論を展開している。

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世界大百科事典 第2版 「政談」の意味・わかりやすい解説

せいだん【政談】

江戸幕府の支配体制に弛緩を生ぜしめている根本的原因を指摘し,当面の対策を論じて,8代将軍徳川吉宗に呈した意見書。荻生徂徠著。4巻。成立年代には諸説あるが,1727年(享保12)4月1日,徂徠がとくに将軍吉宗に謁見を許された日の前後と考えるのが妥当であろう。ただし原稿はこのとき一気に書き下ろしたものではなく,かねて書き留めておいた断片的事項を,このとき集成したと思われる部分も少なくない。徂徠の高弟服部南郭の《物夫子著述書目記》(1753成立)に記載していないことから偽書説もあるが,南郭すら目にする機会のなかったほど秘密に取り扱われていたと解釈されている。

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世界大百科事典内の政談の言及

【政論】より

…政論の担い手は欧米新知識を吸収した知識人,彼らの結成した政党・政社・会派であり,その表明の機関が新聞であった。政治思想普及の方法として新聞とならんで演説が行われたが,演説をとおして語ることを含みとしている〈政談〉に対し,政論は印刷物をとおして論ずることに力点が置かれていた。したがって,一方の政談演説に対し,政論新聞が成立した。…

【徂徠学】より

…徂徠の真意は,道を行うということは,道徳の説教をすることではなく,先王がかつてそうしたように,天下を安んずるうえで有効な制度を定めることである,と論ずるところにある。この主張に基づいて,徂徠はみずからの制度改革論を展開した《政談》を著して将軍吉宗に献上した。徂徠学のもう一つの特徴である人間性への寛容という面では,徂徠は〈気質不変化説〉を唱えた。…

※「政談」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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