捨台詞(読み)すてぜりふ

精選版 日本国語大辞典 「捨台詞」の意味・読み・例文・類語

すて‐ぜりふ【捨台詞】

〘名〙
歌舞伎舞台で、役者脚本に書いてないことをその場その場に応じていいすてる短いせりふ。主として、登場、退場の時にいう。捨てことば
※歌舞伎・助六由縁江戸桜(1761)「後より朝顔千平〈略〉皆々の中へ割ってはひる。皆々捨ゼリフのうち」
人前を立ち去る時、返事を求める気持もなくいいはなつことば、または挨拶(あいさつ)。捨てことば。
※洒落本・面和倶噺(1806)一「『それもよかろう』トそれよりみなみなひとつふたつすてぜりふありて帰り床おさまる」
③ 別れぎわに、相手をおどしたり、さげすんだりする気持でいう、悪意のあることば。
※初すがた(1900)〈小杉天外〉一四「『なんだ、地獄屋め、龍坊さへ取返せア、汝達(てめえたち)に用は無いんだ。さ、龍坊行かう、お出で』と捨台詞(ステゼリフ)を残して」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「捨台詞」の意味・わかりやすい解説

捨台詞
すてぜりふ

歌舞伎(かぶき)演出用語。俳優が舞台で脚本に書かれていないことを、役の気分に応じて臨機応変にいう簡単な台詞(せりふ)。近代劇におけるアドリブに相当し、とくに世話物では俳優の地芸を示す一つ要素になっている。なお日常語にもなっているが、その場合はやや意味が異なり、別れぎわに相手に投げ付けて去ることばの意。

[松井俊諭]

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