押出(読み)おしだす

精選版 日本国語大辞典 「押出」の意味・読み・例文・類語

おし‐だ・す【押出】

[1] 〘自サ五(四)〙
① (他のものより目立ち、表面に出ている状態についていう) 下から上に出る。下から高く出る。中から外へ出る。
滑稽本浮世床(1813‐23)二「袂からは真黒な水が袖口へ押出(オシダ)して」
② (「て」「たる」などを伴って) 世間に公然のものとなる。人に隠れないものとして知れわたる。
史記抄(1477)九「封禅なんどは、をしだいたる事ぢゃほどに、其様に秘したり禁じたりなんどせうす事ではないぞ」
※俳諧・本朝文選(1706)二「山といへば延暦寺にきはまり、寺といへば円城寺をさす、共に押出したる霊場也」
③ 大勢で遊山または遊所(あそびどころ)などに出かける。
咄本・無事志有意(1798)祭り「その日にもなっておし出した所が花やか」
④ (人中に出て行き自分自身を積極的に目立たせようとするところから)
(イ) 芸妓などが披露をする。自分自身を売り込みに人前に出て来る。
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)後「素人の知らぬ表向びっくりするほど立派にして、押出(オシダ)す初手(しょて)のとり掛り」
(ロ) 目立つところへ出て行く。おおぜいの中へ出かけて行く。また、進出する。
※歌舞伎・暫(1714)「右の見得にて、舞台よき所迄押出し」
[2] 〘他サ五(四)〙
(イ) 力を加えて、外へまたは向こうのほうへ出す。
※天草本平家(1592)四「フネヲ ヲキエ voxidasaruru(ヲシダサルル)
(ロ) 相撲で、相手を押し込んで土俵の外へ出す。
※歌舞伎・高台橋諍勝負附(1764)三幕「いや、なんの苦もなう〈略〉土俵際まで、押(オ)し出(ダ)しました」
(ハ) 無理に出す。しいて出す。やっとのことで出す。
※化銀杏(1896)〈泉鏡花〉九「『なるほど肖(に)て居るねえ』と、お貞は推出すが如くに言ふ」
② 人中へ積極的に出す。格別のものとしてとりあげて人前に出す。
狂歌・甚久法師狂歌集(1722)上「出来ものをはれなる江戸におし出してその名を高く上るいへしし
※藪の鶯(1888)〈三宅花圃〉八「あの娘ならどんな官員のマダームといっておしだしても、交際ができるといふくらゐ」
③ 野球で、押し出しをする。
※熱球三十年(1934)〈飛田穂洲〉大投手五郎の出現「渡辺君のノウコントロールが四球から四球と続いて見事に押出したのである」

おし‐だし【押出】

〘名〙
① 物を押して出すこと。
② 人なかに出た時の態度、風采風格貫祿
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「おしだしはしんうちめかせど、わざはいっかうなものとおもわれたり」
③ 相撲のきまり手の一つ。両手を相手の胸またはわき下に当てて押し、土俵外に出す技。
④ 野球で満塁の時、打者四死球などで一塁を与えられた場合、走者は順次進塁を許され、三塁のランナーがホームインすること。
※日本野球史(1929)〈国民新聞社運動部〉三高、一高に挑戦「三高は〈略〉四球を取り押出(オシダ)しの一点を拾って同点
⑤ 歌舞伎で、大道具の下に車をつけ、後ろから舞台の前へ押し出すこと。
※黄表紙・玉磨青砥銭(1790)「いざり景清の役者おし出しにて出る」
⑥ 火山の山腹に溶岩、泥流などが流れ出ること。また、その溶岩、泥流など。
※山への誘い(1957)〈黒田初子〉二「西沢渡には押出が出ている」
⑦ 金属製品、炭素製品、プラスチック製品を製作する工法の一つ。材料を、必要な形の穴を通して押し出して製造する。主として管や棒状のものを作るのに用いられる。

おし‐いだ・す【押出】

[1] 〘他サ四〙
① 力を加えて外や前へ出す。物を押して出す。おしだす。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「御几帳外にをしいださせ給て」
※枕(10C終)一〇四「衣(きぬ)のすそ、裳(も)などは、御簾(みす)の外(と)にみなおしいだされたれば」
② (「おし」は接頭語) 「いだす」を強めていう。
※古今著聞集(1254)一二「この銭わづかに五百なれば、あまたたびにいださんもみぐるし。ただ一度にをし出して、うちとられなば、さてこそあらめと思ひて」
[2] 〘自サ四〙 (「おし」は接頭語)
① 大勢そろって、いきおいよく出発する。軍勢が出撃する。
※平家(13C前)八「播磨国高砂より舟に乗、をしいだひて和泉国にぞ付にける」
② 態度、様子などがきわだって見える。特に目立って、晴れがましい。派手である。
※風姿花伝(1400‐02頃)六「その心ならひにて、をしいたしたる大所(たいしょ)・貴人(きにん)の御まへなどにて」

おし‐い・ず ‥いづ【押出】

[1] 〘自ダ下二〙
① 押して出る。
② (「おし」は接頭語) 出る。
[2] 〘他ダ下二〙
① 物を押して出す。押しだす。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「几帳をしいでて、たいめむし給へば」
② 押出衣(おしいだしぎぬ)をする。
※枕(10C終)二三「御簾(みす)のうちに、女房、桜の唐衣(からぎぬ)どもくつろかにぬぎたれて〈略〉あまた小半蔀(はじとみ)の御簾よりおしいでたる程」

おし‐いだし【押出】

〘名〙
① おし出すこと。押しだし。
② 平安時代以降、貴族が儀式や見物の折に、御簾(みす)の下から女房の装束の一部、特に袖裾を出して、表着・打衣・袿などの表と裏の地色のかさなりを見せること。また、その衣(きぬ)。その豪華華麗さから権勢のほどや自家の美意識を表わした。平安末期には装束だけを並べることやその装束一揃いをもいうようになった。おしいだしぎぬ。いだしぎぬ。→打出(うちいで)
※中務内侍(1292頃か)正応元年一〇月二一日「紅葉重(もみぢがさね)のをしいたし見ゆ」

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