息ぎれ(読み)いきぎれ(英語表記)breathlessness
shortness of breath

改訂新版 世界大百科事典 「息ぎれ」の意味・わかりやすい解説

息ぎれ (いきぎれ)
breathlessness
shortness of breath

普通の状態では,呼吸運動は正常者では必要とされる仕事量が小さいために,意識されずに行われる。しかし,激しい労働やスポーツ,高地に滞在する場合では,呼吸量が著しく増え,また種々の病気のときには,呼吸の能率が悪くなったり,呼吸中枢興奮が異常に高まるために呼吸運動が意識されるようになって,はあはあと息をし,動悸を伴ったり,不愉快な感覚を伴うことがある。これを息ぎれという。類似した用語に〈呼吸困難〉があり,息ぎれの程度が強く,不愉快な感覚を伴う場合に用いられることが多いが,息ぎれとまったく同義の語として用いる人も多い。

息ぎれは,体動によって出現あるいは増強することが多いが,安静時に認められることもある。安静時の息ぎれには,自然気胸のように突発的に起こるもの,気管支喘息(ぜんそく)のように繰り返し発作的に起こるもの,心不全慢性肺気腫などのように持続的に感じられるものがある。体動によって出現する息ぎれは,息ぎれの出現する運動量が,重症度の指標とされる。軽症では短距離の駆足,階段昇降などに際して初めて息ぎれを感ずるが,より重症になると歩行でも息ぎれし,さらに重症では,会話,洗顔などで息ぎれを感ずるようになる。

きわめて多数であるが,大別すると,吸気中の酸素欠乏,肺機能障害,呼吸筋麻痺,心内シャント,血液酸塩基平衡障害,中枢神経障害,心身症となる。吸気中の酸素欠乏は気圧の著しく低下する高地滞在,高空飛行などにみられる。肺機能障害では,気管支喘息,慢性気管支炎,慢性肺気腫などにみられる閉塞性換気障害,肺結核,肺繊維症,肺切除,胸郭成形術,自然気胸にみられる拘束性換気障害,間質性繊維化肺炎,石綿肺などの拡散障害,肺血栓塞栓症,膠原(こうげん)病肺,ショックなどにみられる肺血流障害が息ぎれの原因となる。喉頭浮腫などの上気道閉塞も息ぎれの原因となるが,吸気時に息ぎれ感の強いのが特徴である。心臓病では,肺鬱血(うつけつ)によって肺機能が障害されて息ぎれを起こすほか,心室や心房の中隔欠損などのような右心から左心への心内シャント血流によって,動脈血の酸素含有量が減少することが息ぎれの原因となっている。また血液酸塩基平衡障害は,糖尿病や腎不全時にみられ,非常に大きい呼吸を伴う息ぎれが特徴である。呼吸循環系や血液の異常がなくても,中枢神経の病変によって呼吸中枢の興奮性が異常に高まった場合にも息ぎれを生ずる。心身症の息ぎれは,発作的に呼吸の深さ,数が増加し,二酸化炭素が体内から洗い出されて血液がアルカリ性となり,手足のしびれ,痙攣(けいれん),失神発作まで起こすことがあり,過呼吸症候群hyperventilation syndromeと呼ばれる。

原因として,肺機能障害,酸塩基障害がある場合は,障害の是正に努める。呼吸筋麻痺による息ぎれには,人工呼吸器による補助呼吸を行う。中枢神経障害,心因性原因による場合は,鎮静剤,精神安定剤を用い,また精神療法が有効な場合がある。肺機能障害による息ぎれには,酸素吸入が有効なことが多い。ただし,気管支喘息の息ぎれには無効な場合が多く,また,元来,二酸化炭素の蓄積のある肺疾患では,酸素投与量は慎重に少量から始めなければならない。
呼吸
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の息ぎれの言及

【呼吸困難】より

…しかし,たとえば昏睡状態の患者で,苦悶の状態で,呼吸補助筋までも動員して努力性の呼吸をしている場合も,他覚的に呼吸困難があるとする学者も多く,統一されていない。また呼吸困難は〈息ぎれ〉の程度の強いものとすることが多いが,まったく同義の語として用いる人もある。
[発生機序]
 すべての場合に当てはまる説明はない。…

※「息ぎれ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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