忘れられる権利(読み)ワスレラレルケンリ(英語表記)Right to be forgotten

デジタル大辞泉 「忘れられる権利」の意味・読み・例文・類語

わすれられる‐けんり【忘れられる権利】

インターネットに公開された自分に関する情報の削除を、サーチエンジンSNSBBSなどの運営者に対して要求できる権利
[補説]2014年、欧州司法裁判所がこの権利を認める裁定を行った。

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知恵蔵 「忘れられる権利」の解説

忘れられる権利

プライバシー保護のための新しい権利の概念。インターネットの発達により、ホームページ上などに各種の個人情報が永年消えずに残るようになった。このことから、適切な期間を経た後にまで情報が残っている場合、これを削除したり消滅させたりできる権能があってしかるべきだとする考え方に基づくもの。
近代法的な人権概念は、フランス革命以降の市民社会の発展の中で拡大してきた。社会環境や関係の変化に伴い「知る権利」や「プライバシー権」「環境権」など、旧来の法においては明文化されていない「新しい人権」も求められるようになった。これらのうちプライバシー権は、私生活など個人的な事柄をみだりに公開されないことを保障する権利である。日本国憲法上は個人の尊重や幸福追求の権利に関わるものとして認められ、2003年には「個人情報保護法」が制定された。こうした新しい権利の一つとして、近年提唱されているのが、情報に期限が設けられるとする「忘れられる権利」だ。
かねてから、「知る権利」や「報道自由」などと「プライバシー権」が衝突する領域について様々な論があった。例えば、ある事件について、その時々の状況をニュースで流すのは「報道の自由」に当たる。しかし、報道後に長い年月が経過すれば、事件関係者についての詳細な情報は「忘れられる」と共に、散逸しほぼ消え去るのが一般的だった。ところが、インターネットの発達と社会への浸透により、あらゆる事柄がホームページ上に記録され、その情報は消え去ることなく、永年にわたって衆目にさらされ続けるようになってきた。ことにグーグルなどの検索エンジンによって、極めて古い情報を誰でも掘り起こすことが可能となった。こうした社会環境の変化により、記録に留められるべき条件を持たない過去の個人にまつわる情報を抹消する権利として提唱されたのが、「忘れられる権利」である。
「忘れられる権利」を明確に認めたのは、11年に判決が出たフランス女性らの訴訟である。女性が若き日に撮影したヌード写真が、数十万以上ものホームページに名前と共に転載された。このため、グーグルに対して検索からの削除を求めることを認めた判決だ。この他、予測検索機能で自分の名前を入力すると、十年以上も前に解決済みの未払い金問題が表示されることを不当として起こされた訴訟もある。欧州連合(EU)の欧州司法裁判所は、この表示を止めるよう命じている。また、EU議会は各国の国内法化によらず直接効力を有する「EUデータ保護規則」改正案を14年に可決し、「忘れられる権利」が明文化された。

(金谷俊秀  ライター / 2014年)

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図書館情報学用語辞典 第5版 「忘れられる権利」の解説

忘れられる権利

インターネット上に流出した個人情報について,特定個人がグーグルなどの企業に対して,当該情報にアクセスするリンクの削除を要求する権利.2000年代以降,欧州を中心に議論され,2014年欧州司法裁判所がこの権利を認める判断を下した.2018年施行されたヨーロッパ連合(EU)一般データ保護規則(GDPR)に明記される.日本では,2015(平成27)年さいたま地裁がこの権利に言及したが,翌年東京高裁は要件や効果が明確でないとしてこれを取り消した.民主主義の根幹をなす知る権利,表現の自由を抑制する側面があり,普遍的な国際的人権としては熟していない.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「忘れられる権利」の意味・わかりやすい解説

忘れられる権利
わすれられるけんり

インターネット上に掲載された自分の個人情報を削除できる権利。2012年1月、ヨーロッパ連合(EU)は個人情報保護を定めた「一般データ保護規則案」を公表。この第17条に「忘れられる権利right to be forgotten」が明文化され、データ元の個人から請求があった場合、個人データ管理者に当該データの削除が義務づけられることとなった。これに対しグーグル社は「報道の自由に対する検閲」と主張し反対してきた。しかし2014年5月、EU司法裁判所がスペイン人男性の訴えを認め、グーグルにリンクの削除を命じる判決を下した。その後グーグルには削除依頼が殺到し、グーグルがこれに対応したため、多くの犯罪や不祥事に関するニュース記事が表示されない状態になった。特定の情報を削除することによって市民の知る権利が侵害されることにもなるため、忘れられる権利と知る権利との線引きをどう決めるかが課題である。

[編集部]

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