引田部赤猪子(読み)ひけたべのあかいこ

朝日日本歴史人物事典 「引田部赤猪子」の解説

引田部赤猪子

古事記雄略天皇の条に登場する女性天皇が三輪川に行幸したときにその美しさに目をとめた。いまに宮中に召すから嫁がずにおれと命じられ,それを待っていたが音沙汰のないまま80歳をすぎた。老いた身で入内しようとは思わぬが,待ち続けた思いを表したいと願い,ついに結納の品々を携え皇居を訪ねて事情を述べた。天皇は驚いて,女の心情を憐み,成婚ができなくなったことに心を痛めて「あなたは若かったのに。若いうちに妻とすればよかった」という意味の歌,ほか1首を賜った。赤猪子は涙ながらに「蓮の花のような女盛りの人が,うらやましいことでございます」などの歌を返歌した。天皇は多くの褒美を持たせて帰したという。老境のあわれが語られるとともに,天皇の仙人のような長寿と若さを語る伝承となっている。ここには中国の神仙思想の影響が考えられよう。

(寺田恵子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「引田部赤猪子」の解説

引田部赤猪子 ひけたべの-あかいこ

「古事記」にみえる女性。
少女ころ,大和(奈良県)美和河(三輪川)に行幸した雄略天皇にみそめられ,嫁がずにいれば宮中にむかえるといわれる。そのまま80年たち,参内して天皇に事情をのべると,天皇はおどろいてその老いたのをいたみ結婚はできないと,かわりに歌をおくったという。
格言など】日下江(くさかえ)の入江の蓮(はちす)花蓮身の盛り人羨(とも)しきろかも(「古事記」)

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