日本大百科全書(ニッポニカ) 「長寿」の意味・わかりやすい解説
長寿
ちょうじゅ
長寿とは長生きの意であるが、具体的に、この語が何歳からをいうのかについては明確な定義がない。国により、時代により、性により、また生活環境によって寿命は異なってくる。一般に80歳以上を長寿とする場合が多いが、日本のように平均寿命が男78.56年(歳)、女85.52年(歳)(2005年完全生命表による)と高い国では、85歳以上を長寿とするほうがよいとする説もある。生物は、体が大きく、成熟までの期間が長いほど寿命が長いとされる。マウスの最長寿命は3.5年、ネコは34年、インドゾウは70年とされている。しかし、ヒトは例外で、110ないし120年が寿命の限界と考えられている。
1世紀を生き続けた100歳以上の人をセンテナリアンcentenarianとよぶが、日本では2008年(平成20)9月末時点で3万6276人に達した。なお、1963年(昭和38)では153人、1985年は1740人であり、初めて1万人を超えたのは、1998年の1万0158人である。また、性別では、男5063人、女3万1213人と約14%対86%の割合で女性のほうが多い。人間に限らず、他の生物においても雌が雄より長生きするのが一般的傾向で、種族保存の理にかなっているとされるが、その原因は明らかではない。
世界には有名な長寿村が3か所ある。ペルー中央部のビルカバンバ、パキスタンのフンザ、黒海とカスピ海の間のカフカス(コーカサス)である。ハーバード大学教授のアレキサンダー・リーフAlexander Leafは、これら長寿地域の住民に共通する因子として、理想的な食生活、適度の労働、そして各種の事象に対する幅広い関心の三つをあげている。日本でも、東北大学教授(のち名誉教授)近藤正二(しょうじ)(1893―1977)が36年間にわたって日本各地の長寿村、短命村を調べ、長寿と食生活との関係を明らかにしている。それによると、米が少なく、魚、大豆、野菜が豊富で、ゴマや海藻をよく食べる地域に長寿者が多いという。山梨県上野原(うえのはら)市棡原(ゆずりはら)は、かつて日本でも有数の長寿村であったが、長年この地域を回診している甲府市の古守(こもり)病院の院長であった古守豊甫(とよすけ)によると、1952年(昭和27)のバス開通を境に、住民の生活環境、とくに食生活が大きく変わり、長寿村の特徴が失われつつあるという。また、「健康・体力づくり事業財団」は、1981年、日本における100歳以上の長寿者全員に対して、その保健栄養調査を実施した。そして、長寿者の食事では、大豆、魚などのタンパク性食品のほか緑黄色野菜の摂取頻度が高いこと、肉類を除けば好き嫌いが少ないこと、健康法としては、「物事にこだわらないよう心がけること」が多いなどの結果を得た。
長寿者を家系的にみると、長寿者の父母の約40%が70歳以上、約60%が60歳以上で亡くなっているほか、兄弟姉妹にも長生きの者が多いことから、遺伝との関係が強いことがうかがえる。双生児の寿命は、二卵性の場合、寿命差が約6年であるのに対し、一卵性ではわずか3年にすぎないという研究報告も出されている。長寿に対してのさまざまな考察を述べたが、寿命には、このほか多くの因子が関与している。たとえば、地域的には、以前は宮崎県、愛媛県などの西日本の気候温暖な地域の住民に長寿者が多いとされたが、近年は東京都、神奈川県など、医療体制に恵まれた大都市で平均寿命が高くなっている。
[苫米地孝之助]
『近藤正二、萩原弘道著『新版 日本の長寿村・短命村』(1991・サンロード出版)』▽『クリストフ・ヴィルヘルム・フーフェラント著、井上昌次郎訳『長寿学――長生きするための技術』(2005・どうぶつ社)』▽『太田保世著『長寿考――古典と医学に見る長生きの秘訣』(2005・東海大学出版会)』▽『冨士谷あつ子・岡本民夫編著『長寿社会を拓く――いきいき市民の時代』(2006・ミネルヴァ書房)』▽『E・メチニコフ著、平野威馬雄訳『長寿の研究』(2006・幸書房)』