引上・引揚(読み)ひきあげる

精選版 日本国語大辞典 「引上・引揚」の意味・読み・例文・類語

ひき‐あ・げる【引上・引揚】

[1] 〘他ガ下一〙 ひきあ・ぐ 〘他ガ下二〙
① 引いて上に上げる。ひっぱって高いところに移す。
古事記(712)上(道祥本訓)「塩許袁呂々々々邇〈此の七字は、音を以ゐる〉画鳴(かきなしし)〈鳴を訓みて那志々と云ふ〉て引上(ヒキアクル)時」
源氏(1001‐14頃)空蝉「もやの木丁の帷子ひきあげて」
② 日時をはやめる。時間を繰り上げる。
※大日経義釈延久承保点(1074)一〇「引(ひキ)(アケ)て斉に当てしむ」
③ 選んで目をかけて用いる。登用する。
※浮世草子・世間胸算用(1692)五「世はなげくまじ又引あぐる神も有て」
④ 取り上げる。没収する。他にまかせておいたものを取りもどす。
※歌舞伎・東海道四谷怪談(1825)序幕「僅かな事を云ひ立てに、娘を引揚げ、苦しまぎれに、遊女はしたにでも売る心か」
程度をはなはだしくする。
※滑稽本・和合人(1823‐44)四「釜屋の酒がまだ醒めねへところへ此処でやらかしたから酔を引上(ヒキア)げて」
⑥ 価格や比率を高くする。
朝野新聞‐明治一五年(1882)六月一日・附録「洋糸は〈略〉総て一枚方も引上げ当分の内は下落の見込なし」
⑦ 検挙する。
正雪の二代目(1927)〈岡本綺堂〉二「義平もつづいて引挙げられるらしい」
軍勢を退かせる。
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「鎮兵を引揚げしむる等の事を管督せしむるに」
[2] 〘自ガ下一〙 ひきあ・ぐ 〘自ガ下二〙
① その場所から退去して他に移動する。撤退する。立ちのく。
恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉二四「出初を退挙(ヒキア)げて行く消防隊の長い木遣が」
もとのところへ帰る。もどる。また、居住していた外国から故国に帰る。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「表門から落雲館へ引き上げる」

ひき‐あげ【引上・引揚】

〘名〙
① ひっぱって上にあげること。
② 程度や値をより高いものにすること。
上海(1928‐31)〈横光利一〉三三「関税の引き上げを政府へ向って要求した」
③ 日時を繰り上げること。
※師郷記‐文安元年(1444)三月二四日「今日於東福寺、虎関和尚百年忌仏事致沙汰云々。明年当之。然而引上沙汰之云々」
④ 軍勢を率いてもどること。
暁月夜(1893)〈樋口一葉〉「賊を討ち大功をなして此画は引上(ヒキアゲ)の処」
⑤ いままでいたところをひき払って、もといたところにもどること。また、居住していた外国から故国に帰ること。
※姫岩(1948)〈田村秋子〉二幕「復員、引揚げ、疎開の人間と」
⑥ 産婦を介抱して産児を取り上げること。取り上げ。
⑦ 政府が民間から現金を受け入れること。

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