帷子(読み)かたびら

精選版 日本国語大辞典 「帷子」の意味・読み・例文・類語

かた‐びら【帷子】

〘名〙 (あわせの「片ひら」の意)
几帳(きちょう)、御帳(みちょう)、壁代(かべしろ)などに用いて、へだてとするたれ布。夏は生絹(すずし)、冬は練絹(ねりぎぬ)を用いる。
書紀(720)大化二年三月(北野本訓)「其の葬らむ時の帷(カタヒラ)(かたしろ)等は白布を用ゐよ」
※栄花(1028‐92頃)初花「御几帳のかたびら掛けかへ、御鏡など持て騒ぎ参る程」
② 裏をつけない布製の衣類の総称。夏は直衣(のうし)の下に着る。
※枕(10C終)三三「夏などのいと暑きにも、かたびらいとあざやかにて」
平家(13C前)一〇「廿ばかりなる女房の、色白う清げにて、まことに優にうつくしきが、目結(めゆひ)のかたびらに染付けの湯巻きして」
③ 夏に着る、麻、木綿、絹などで作ったひとえもの。また、一般に、ひとえの着物。かたびらきぬ。《季・夏》
仮名草子・尤双紙(1632)上「むさき物之しなじな〈略〉かたびらのしみもの。はなくそ」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「四月から九月までの間で袷と羅衣(カタビラ)時候に用るのさ」
④ 仏式で、葬る時、名号、経文題目などを書いて死者に着せる着物。白麻などでつくる。経帷子(きょうかたびら)
※仮名草子・竹斎(1621‐23)下「浄土三部経を書きたるかたびらを上に著て」
浮世草子日本永代蔵(1688)三「死では何も入ぬぞ。帷子(カタヒラ)ひとつと銭六文を四十九日長旅のつかひ」

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デジタル大辞泉 「帷子」の意味・読み・例文・類語

かた‐びら【帷子】

あわせ片枚かたひらの意》
裏をつけない衣服の総称。ひとえもの。
生絹すずしや麻布で仕立てた、夏に着るひとえの着物。 夏》「青空のやうな―きたりけり/一茶
経帷子きょうかたびらのこと。
几帳きちょうとばりなどに用いて垂らす絹。夏は生絹すずし、冬は練り絹を用いた。
「御几帳の―引き下ろし」〈・若紫〉

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改訂新版 世界大百科事典 「帷子」の意味・わかりやすい解説

帷子 (かたびら)

夏の着物の一種。かたびらは袷(あわせ)でなく裂(きれ)の片方を意味し,帳(ちよう)の帷(い)や湯帷子ゆかたびら)はその原義を示しているが,のちには単物(ひとえもの)を称するようになった。このほか装束の下に用いる帷子と,小袖の表着(うわぎ)としてとくに麻あるいは生絹(きぎぬ)の単物をいう場合もある。装束の帷子は,はじめ装束の下に肌身につけた汗取(あせとり)から起こり,夏季に袷衵(あわせあこめ)をはぶいて単襲(ひとえがさね)を着て,下に麻の帷子を着用した。のちには赤帷子に衵や単の袖をつけて用いたり,さらに大帷子といって夏冬を通じて紅の帷子の袖と襟に,単と下襲(したがさね)の裂をつけて小袖の上に用いるようになった。武家では直垂(ひたたれ)着用のときに,のりを強くした白の帷子を重ねるのを正式とした。一方,小袖の表着としての帷子は夏季に直垂以下大紋(だいもん)には白,布衣(ほうい)以下(かみしも)には白または染帷子を用いるのが一般であり,染帷子には梅染,浅黄などがあり,地口に唐布,越後布などが多く用いられた。女子の着物も夏季には絹綾製の単と盛夏に帷子が用いられたが,帷子は麻あるいは地白の絹ちぢみの類を称した。つまり腰巻の下に,白または黒地の晒(さらし)麻(奈良晒が多い)に,藍色を主とした清楚な風景模様に金銀彩糸で惣縫(そうぬい)をほどこしたものが用いられ,下級品にはししゅうをしないものもあった。これらの模様や染め方を,一般に茶屋染あるいは茶屋辻などと称した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「帷子」の意味・わかりやすい解説

帷子
かたびら

ただ帷と書かれることもある。衣服および調度の用語。

(1)公家(くげ)の衣服の場合は、布製(植物性の繊維で織ったもの)の単(ひとえ)仕立ての下着。近世以降の小袖(こそで)の場合は、布製の単物の着物のこと。江戸時代の御殿女中が夏季に着用のものには、越後上布(えちごじょうふ)、奈良晒(ざらし)、薩摩(さつま)上布などに藍(あい)染めで詳細な模様を表し、さらに刺しゅうを加えた「茶屋辻(つじ)」とよばれる技法を施した小袖もある。また、夏の季語として帷子を用いるように、現在「帷子時」といえば盛夏の時節をさす。

(2)公家調度においては、帳台や几帳(きちょう)にかけて垂らす、表裏とも平絹(ひらぎぬ)や綾(あや)で仕立てられた幕状のものをさす。

[高田倭男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「帷子」の意味・わかりやすい解説

帷子
かたびら

夏の麻のきもの。古くは片枚 (かたひら) と記し,裏のない衣服をすべてこう呼んだが,江戸時代には,単 (ひとえ) 仕立ての絹物を単と称するのに対して,麻で仕立てられたものを帷子と称した。武家のしきたりを書いた故実書をみると,帷子は麻に限らず,生絹 (すずし) ,紋紗 (もんしゃ) が用いられ,江戸時代の七夕 (7月7日) ,八朔 (8月1日) に用いる白帷子は七夕には糊を置き,八朔には糊を置かないのがならわしとなっている。ゆかたも湯帷子が本来の名称であった。

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百科事典マイペディア 「帷子」の意味・わかりやすい解説

帷子【かたびら】

夏衣装の一種。本来裂(きれ)の片方を意味したが,江戸時代には麻の単(ひとえ)物をさした。装束の下に用いるほか小袖(こそで)の表着とされ,直垂(ひたたれ)以下大紋には白,布衣(ほい)以下裃(かみしも)には染帷子が一般に用いられた。また武家女性の盛夏の衣料としては越後,能登,奈良等の上質の麻が用いられた。藍(あい)や茶で水辺の風景や花鳥を染め抜き,金糸や色糸で刺繍(ししゅう)をほどこした模様は,茶屋辻とか茶屋染といわれた。

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世界大百科事典(旧版)内の帷子の言及

【着物】より

…〈着るもの〉という意味から,衣服と同義語として用いられることもあるが,洋服に対して在来の日本の着物,すなわち和服を総称することもある。しかし現在一般に着物という場合は,和服のなかでも羽織,襦袢(じゆばん),コートなどをのぞく,いわゆる長着(ながぎ)をさすことが多い。これは布地,紋様,染色に関係なく,前でかき合わせて1本の帯で留める一部式(ワンピース)のスタイルのもので,表着(うわぎ)として用いる。以下〈着物〉の語はおもに長着をさして使う。…

【茶屋染】より

…夏の帷子(かたびら)の染法。寛永(1624‐44)ころ,京都の呉服商茶屋四郎次郎が創案したという。…

※「帷子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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