子房
しぼう
雌しべの下部の多少とも膨らんだ部分をいい、中に子房室があり、胚珠(はいしゅ)を入れている。子房には内部に仕切りがなくて1室の場合と、仕切りによって、2室、3室、4室、5室などに分かれている場合がある。子房に仕切りがあれば、室の数はその雌しべをつくっている心皮の数と一致するのが普通である。子房1室の場合は1心皮性によるときと、複数の心皮が合成されてできるときがある。胚珠は子房室につくが、胚珠のつくところを胎座とよび、いくつかの型に分けられる。胎座の突出や変形によって、子房室は複雑に入り組んだり、二次的な仕切りができたりすることがある。
子房の位置によって花の三つの段階が区別される。子房が萼(がく)、花冠、雄しべなどより上にあるものを子房上位とよび、原始的な形態とみなされている。花托(かたく)がくぼんで子房の下部を取り巻き、萼、花冠、雄しべなどが子房の周囲にあるものを子房中位、さらに花托が子房全体を包み込み、萼、花冠、雄しべなどが子房よりも上にあるものを子房下位とよんでいる。子房下位の場合では、子房壁と花托、ときにはさらに萼筒が合体し、しばしば組織的にも区別が困難となる。胚珠が成熟して種子になれば子房も大きくなって果実となるが、子房下位花では、普通、果実には花托などのような子房以外の要素が加わって偽果となる。
[田村道夫]
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子房
しぼう
ovary
被子植物の花のめしべ (雌ずい) の下部にあり,雌性生殖細胞を分化する部分。1~数枚の心皮が袋状に癒合したもの。心皮の縁は巻込まれて胎座となり,のちに種子となる胚珠をつける。子房と花のほかの部分 (おしべや花弁) との位置関係は次の3型に分けられる。 (1) 上位子房 リンドウ科,アブラナ科,イネ科のようにおしべより子房のほうが上にあるもの。 (2) 下位子房 キク科,アヤメ科のように子房がおしべより下にあるもの。 (3) 中位子房 ユキノシタ科のように前2者の中間型のもの。花の中での子房の位置は,被子植物の分類の際に用いられる重要な要素の一つである。
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子房【しぼう】
被子植物のめしべの下部にあって,胚珠が入ってふくらんでいる部分をいう。胚珠は子房壁につつまれた子房室の中にあり,湿度と安全が保たれる。胚珠のつくところを胎座と呼ぶが,そのつき方は種によって異なり,いくつかの胎座型が区別される。また子房の付着部が花被やおしべ,めしべの付着部より上にあるか下にあるかによって,子房上位(ナタネ),子房中位(サクラ),子房下位(ナシ)の区別がある。受精後,子房は発達して実となり,胚珠は種子となる。
→関連項目花|被子植物|蜜腺|めしべ
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し‐ぼう ‥バウ【子房】
〘名〙 被子植物の雌しべの下端のふくらんだ部分。一枚から数枚の心皮が結合してできたもので、一個から数個の室からなり、各室に一ないし多数の胚珠ができる。上部は
花柱に連なり、受精すると子房は発達して果実に、胚珠は種子になる。雄しべ、花弁、萼との位置関係から子房上位・中位・下位に分けられる。
実礎(じっそ)。〔植学訳筌(1874)〕
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デジタル大辞泉
「子房」の意味・読み・例文・類語
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しぼう【子房 ovary】
被子植物にみられる構造で,めしべが袋状となり,中に胚珠ovuleが入っている部分で,熟すと実になる。胚珠は子房壁ovary wallにより囲まれた子房室loculeの中にあり,外界から隔離されていて,胚珠が病気や虫により直接おかされることを防いでいる(図1)。また子房室内は胚珠の生長に適した環境,とくに湿度が保たれている。子房は1室~多室で,2室以上のものでは,隔壁septumで仕切られている。 胚珠のつくところを胎座placentaとよぶが,これは基本的に心皮の二つの縁辺である。
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