スイレン(英語表記)water lily
pond lily
Nymphaea

改訂新版 世界大百科事典 「スイレン」の意味・わかりやすい解説

スイレン
water lily
pond lily
Nymphaea

熱帯から温帯にかけて広く分布するスイレン属の植物の総称で,大型の美しい花をもち,多くの園芸品種が作られている。漢名は睡蓮。属名はギリシア神話の水の精ニンフにちなむ。スイレン属は約40種を含み,すべて水生の多年草である。泥中を横にはうか塊茎状となる大きな根茎をもつ。葉は長い葉柄をもち,葉身は楕円形で,水面に浮かぶ。花は根茎より伸びた長い花柄上に単生し,萼片は4~6枚,花弁,おしべは多数で,子房側壁につき,しばしば両者の中間型がみられる。子房は5~40枚の心皮より成り,各室の側壁に多数の胚珠をつける。柱頭は盤状になる。ヒツジグサN.tetragona Georgiは,北半球の温帯域に広く分布する比較的小型のスイレンで,日本に野生する唯一のものである。ヒツジグサの名前は未(ひつじ)の刻(午後2時)に花が開くことからつけられたといわれているが,午前中に開花する。花は夕方になると閉じ,翌日に再び開くということを数日間続ける。

 スイレン属の植物は花が美しいので,池や温室で観賞用に栽培される。種子や根茎はデンプンを多く含み,食用にされることもある。また根茎はヌファリジンnupharidineを含み,胃腸薬として使われている。
執筆者:

観賞用のスイレン類には交配などによって改良された多くの品種がある。温帯系のものからは耐寒性の品種群が,熱帯系のものからは美しい熱帯スイレンが作り出されている。耐寒性品種群でもっとも有名なのは,フランスのマルリアックL.Marliacによって改良された一群で,アトラクションAttraction,ロゼアRosea,クロマテラChromatella,アルビダAlbidaなど今日でも多く栽培されており,この一群を一つの種とみなし,彼を記念してN.marliacea Hort.と呼ぶ。このほかヨーロッパ産のN.alba L.,北アメリカ南部~メキシコ産のN.mexicana Zucc.,日本にも野生するヒツジグサなどを交配した品種も多い。熱帯スイレンはおもにアメリカにおいて盛んに品種改良が行われている。熱帯圏では周年,白・黄・桃・紅・青紫色などの美花をつける。花径は大きなものでは30cmに及ぶ。耐寒力がないため,日本ではあまり栽培されていない。開花期間から昼咲性品種群と夜開性品種群とがある。原種系では,アフリカ原産のニムファエア・カペンシスN.capensis Thunb.系のものがもっとも多く栽培されている。また,北アフリカ原産のN.caerulea Sav.と前種との交配によるN.pennsylvania Hort.や,夜開性のN.lotus L.やN.rubra Roxb.,あるいはこれらの交配種であるN.devoniensis Hook.なども栽培される。

 水生植物として池に植えられ,日本では夏にその花を楽しむことが多い。4月ごろ粘質土を用いて鉢植えし,これを池や水槽に沈めて栽培するのが一般的であるが,水深はふつう30cmぐらいとする。繁殖は根茎を春に株分けする。植付けは4月ごろ。熱帯性種は温帯地域では冬季温室内で保護する。
執筆者:

スイレン,コウホネジュンサイなどを含む8属,約100種からなり,世界中の熱帯から温帯にかけて分布する。すべて水生植物である。葉は単葉で楯状葉をもつものが多く,しばしば水中葉と水上葉の2型が見られる。花は美しいものが多く,萼片は3~6枚,花弁,おしべは多数。子房は上位から下位までいろいろな進化段階をしめす。胚珠は子房の壁面につく。種子は堅い種皮に包まれており,デンプンを多く含む胚乳と周乳をもつ。スイレン科は二つの亜科に分類される。スイレン亜科はスイレン,コウホネ,オニバスなどを含み,太い根茎をもち,花は大型で心皮は合着する。ジュンサイ亜科にはジュンサイ,ハゴロモモがあり,比較的小型の花で,心皮は離生している。ハス属もスイレン科に入れられることがしばしばあるが(英語ではlotusでスイレンとハスの両方を指すので,しばしば混同される),現在では独立のハス科とされている。スイレン科の植物は多数の花弁,おしべ,心皮をもち,このことからキンポウゲモクレンの仲間に類縁があると考えられている。スイレン,オオオニバスなどは大型で美しい花を咲かせるので,観賞用に栽培され,とくに植物園の温室の池には欠かせない植物の一つとなっている。また,ハゴロモモは水槽に金魚とともに入れられて,繊細な水中葉が観賞される。デンプンの多い種子や根茎が世界各地で食用にされるほか,日本ではジュンサイの粘質物に覆われた若芽が吸物の実などに利用されている。さらに,スイレン,コウホネ,オニバスはヌファリジンというアルカロイドを含み,根茎や実が民間薬として使われている。
ハス
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スイレン」の意味・わかりやすい解説

スイレン
すいれん / 睡蓮
water lily
[学] Nymphaea

スイレン科(APG分類:スイレン科)スイレン属の水生植物。学名はギリシア・ローマ神話にある女神ニンフに由来する。地下根茎は太く、ワサビ状で水中の地面をはい、太い根を多数地中に伸ばす。葉は光沢があり全縁、長い葉柄があり、通常は水面に浮かぶ。気孔は葉の上面に多い。花期は4月中旬~9月上旬、花は4枚の萼片(がくへん)に包まれ、八重咲きの花弁の中心に多数の雄しべがある。花弁は萼片とともに十文字に朝夕開閉する。北半球温帯および熱帯に約40種分布し、現在の園芸種はこれらの種類の交雑により改良、作出された。

 温帯産のスイレンは耐寒性が強く、花色が赤、桃、白、黄色などの品種があり、ヒメスイレンなどごく小形な種類もある。日本には池や沼に野生するヒツジグサ1種が自生する。

 熱帯産のスイレンは一般にネッタイスイレンとよばれ、温帯種より大形で多くの品種がある。地下茎が塊茎状のものもあり、花色は豊富で、夜開性のものや芳香種もある。おもなものは、昼開性のエンチャントメント(桃色)、ピンクパール(桃色)、トレイル・ブレーザー(黄色)などや、夜開性のミセス・G・C・ヒチコック(淡桃色)、プライド・オブ・カリフォルニア(赤色)などである。花茎は水面上に20~30センチメートル伸び、茎頂に花をつける。

[神田敬二 2018年6月19日]

栽培

株分け、分球によって繁殖する。植え付けは温帯種は3月下旬~4月上旬で、熱帯種は水温の高まるのを待ち、1か月遅れとし、成長点の新芽の発芽部が出る程度に植える。用土は粘質の沖積土がよく、直接池や水槽などに植える場合もあるが、鉢植えにして鉢ごと沈めておくほうがあとの管理がしやすい。栽培場所は十分に日が当たらないと花芽の着生が悪くなる。水深は10~20センチメートルとするが、植え付け時は浅水にしないと水温が下がり、花つきが悪くなる。元肥は油かす2、骨粉1、藁(わら)灰1の割合に混ぜ、植え付けの20日以上前に用土の3%ほどを混入し、土となじませておく。追肥は生育時に2、3回煮干しを土中に差し込む。夏は葉が茂り、枯れ葉が出るので傷んだ葉を除去する。熱帯種は冬は掘り上げ、まとめて砂植えにし、水槽などに入れ室内に保存する。

[神田敬二 2018年6月19日]

文化史

スイレンは古代エジプトで神聖視され、スイレンの花冠をかぶったオシリスの神は復活のシンボルであった。古代エジプトの聖なる色をした青いスイレンは第4王朝(前2600~前2450)の神への捧(ささ)げ物のなかに描かれ、第19王朝のラムセス2世(在位前1250~前1235)の棺からは、50センチメートルの花茎のついた青いスイレンと、花冠や花輪に使われた多数の白いスイレンがみいだされた。日常の生活でも、水鉢に花がいけられ、女性は渡されたスイレンの花を手にして宴席に臨んだ。スイレンは睡蓮(すいれん)の意味で、朝開花し、午後に花を閉じるのを、睡(ねむ)ると見立てて名づけられたが、その開閉時間は品種によってまちまちである。日本に自生するヒツジグサは未(ひつじ)の刻(午後1~3時)に花を開き、夕方の5~6時に花を閉じる。

[湯浅浩史 2018年6月19日]


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栄養・生化学辞典 「スイレン」の解説

スイレン

 [Nelumbo nucifera].ハス(蓮)ともいう.スイレン目ハス科ハス属に属する.水中の地下茎を食用にする.→ハス

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のスイレンの言及

【ハス(蓮)】より

…英名は(East) Indian lotus,Egyptian lotus,sacred lotus。なおlotusはスイレンをも含めた総称。根茎は白色で細長く泥中をはい,先端部は肥厚し,れんこんとなる。…

※「スイレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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