妊娠と薬の影響

六訂版 家庭医学大全科 「妊娠と薬の影響」の解説

妊娠と薬の影響
(女性の病気と妊娠・出産)

 妊娠中に服用した薬は胎盤を通過し、胎児に移行する可能性がありますので、その必要性について慎重に考えなければなりません。しかし一方、妊娠中であっても、服用しなければならない薬があり、むやみに胎児への影響を恐れて、薬を勝手に中止することも避けなければなりません。

 薬の胎児に対する影響については、服用時期が重要です。まず、服用が受精前あるいは受精から2週間(妊娠3週末)までならば、ごく少数の体内蓄積性の高い薬を除き、胎児奇形出現率は増加しません。妊娠3週末までに胎児(胎芽(たいが))に与えられたダメージ流産を引き起こす可能性はありますが、そうでなければダメージは修復されて、奇形は発生しないと考えられています。

 妊娠4週以降11週末までは器官形成期であり、胎児は薬に対し最も感受性が高く、奇形が発生する可能性があります。しかし、実際に奇形を起こすと証明された薬は少なく、またこれらの薬も少量服用してただちに奇形が発生するわけではないので、いたずらに恐れる必要はありません。奇形を起こす可能性があるとされている薬は、抗がん薬、降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬、抗てんかん薬のカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、フェニトインなど、アミノグリコシド系抗結核薬、抗血栓薬のワルファリンカリウムなどです。

 妊娠12週以降の薬物服用では奇形は起こりませんが、とくに妊娠後半期での薬の服用で、胎児機能障害や胎児毒が現れることがあります。抗生物質のテトラサイクリンによる歯の黄色着色やインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬による胎児動脈管収縮などがあります。

 個々の薬の胎児への影響については日々新しい情報が提供されていますし、また薬を服用することの利益と危険性については、個々の妊娠ごとに考えなければなりません。したがって、妊娠中に服用した薬について、主治医に相談することが大切です。また、厚生労働省の事業として国立成育医療センター内に設置された「妊娠と薬情報センター」などの、専門機関に問い合わせることも可能です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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