大学法人(読み)だいがくほうじん

大学事典 「大学法人」の解説

大学法人
だいがくほうじん

大学を設置する法人,または大学そのものの諸形態のうち,法人格を持つものをいう。欧米の大学は過去の歴史的経緯もあって法人格を持つとされているものが多いが,日本の大学制度は当初政府の機関としての帝国大学の設置から始まり,また私学も当初は政府の強い規制を受けつつも私塾の伝統もあって「大学法人」という概念は生まれてこなかった。その後,私学についてその財政基盤の安定のための財団法人の設立義務や基本財産の供託義務が制度化(改正私立学校令および大学令)されたものの,今日のような姿で法人制度が整備されたのは第2次世界大戦後になってからである。

 現在,国立大学については国立大学法人(日本)が,公立大学の多くについては公立大学法人(日本)が設置する大学になり,また第2次世界大戦後の教育改革の中で,私立大学については学校法人のみがこれを設置しうることになっている(学校教育法2条。構造改革特区での特例等は除く)。いずれも法人格を持つ設置主体によって大学が設立・運営されるという法的構成がとられ,このうち学校法人については制度化当初は大学(私学)の自主性の尊重の見地から,また近年では国立大学法人や公立大学法人について,大学の自主自律と責任の明確化のために,このような設計がなされている。ここでは私立大学の設置者としての学校法人制度(日本)について取り扱う(国立大学法人については国立大学法制,公立大学法人については公立大学法制を参照)

 学校法人は,私立学校の設置を目的として私立学校法(日本)の定めるところにより設立される法人のことである(私立学校法3条)。私立学校のうち,大学および高等専門学校を設置する学校法人は,文部科学大臣の所轄に属する。学校法人を設立しようとする者は,その設立を目的とする寄附行為をもって目的,名称,管理運営等の事項を定め,文部科学省令で定める手続きに従い,所轄庁に認可の申請をしなければならず(同法30条),大学の場合,所轄庁である文部科学大臣は,私立学校法制定目的の一つである私立学校の自主性の尊重の見地から(同法1条),認可をする場合はあらかじめ所定の審議会(大学設置・学校法人審議会)の意見を聴かなければならない(同法31条)

 学校法人には,役員として理事(学校法人)5人以上および監事2人以上を置かなければならず,理事のうちの1人が寄附行為の定めるところにより理事長となる(私立学校法35条)。学校法人には理事をもって組織する理事会が置かれ,理事会が学校法人の業務を決し,理事の職務の執行を監督する。また理事会の議事は寄附行為に別段の定めがない限り,出席理事の過半数で決し,可否同数のときは議長が決するとあり(同法36条),これらは理事長および理事の専断を防止するために設けられた規定である。したがって,国立大学法人および公立大学法人では理事長(学長)に大きな権限が認められ,理事はこれを補佐するに過ぎないこととは対照的な規定の仕方になっている。このことは役員の選任についての規定からも窺える。すなわち理事は,学校法人が設置する大学の学長のほか,寄附行為に定めるところにより選任された者が就任することになっており,理事長の判断によって任命するものではないこと,理事および監事は選任の際に現に当該学校法人の役員または職員でない者が含まれるようにしなければならないこと,役員のうちには各役員についてその配偶者または3親等以内の親族が一人を超えて含まれることになってはならないとしていることなど,その要件がきわめて厳格にされていることからも窺える(同法38条)

 また,学校法人には理事の定数の2倍を超える数の評議員によって構成される評議員会(学校法人)を置かねばならず,理事長は予算,借入金および重要な資産の処分に関する事項,事業計画,寄附行為の変更など私立学校法に規定する事項について,あらかじめ評議員会の意見を聞かねばならず,また評議員会は学校法人の業務もしくは財産の状況または役員の業務執行の状況について意見を述べ,諮問に答え,さらに役員から報告を徴することができるなど,法人の業務執行に重要な役割を担うようになっている(私立学校法41~43条)

 学校法人の解散は,寄附行為に定めた解散事由等のほか,破産手続開始の決定があった時や私立学校法の規定(62条)による文部科学大臣の解散命令があった時などの事由による(同法50条)。いずれも厳格な要件および手続きが定められており,これらは日本国憲法に保障する結社の自由や学問の自由に淵源を有する私学の自主性と大きな関係がある。ただ,近年は私学をめぐる経営環境が悪化しており,また不適切な運営を行う私学の社会的責任を問う声も増しており,学校教育法に基づく改善命令などさまざまな形で,所轄庁である文部科学大臣の権限が増大する傾向にある。一方,学校法人に対する財政支援については,当初は私学の自主性の確保や憲法89条に定める公の財産の支出制限などから所轄庁は消極的であったが,1975年の私立学校振興助成法の制定にみられるように,私立学校に対する補助金の支出は国および地方公共団体による私学政策の重要な柱となっており,さらに制度の多角的運用によって,大学改革の誘導や学校法人の経営の健全化に資するなどの効果も生じている。ただし,学校法人に対する国の基本的態度は,私立学校の自主性の尊重であることは,現在も変わりのない事柄である。
著者: 山本眞一

参考文献: 俵正市監修『注釈私立学校法』法友社,2013.

参考文献: 小野元之『私立学校法講座―平成21年改訂版』学校経理研究会,2009.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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