原子価
げんしか
valence
ある元素の原子がほかの元素の原子と結合する能力を表す数、すなわち原子量を当量で割った値である。基準には水素をとり、水素原子を1価とする。たとえば、塩化水素HClは塩素原子一つが水素原子一つと結合しているので、塩素原子の原子価は1価であり、水分子H2Oの結合からわかるように、酸素原子の原子価は2価である。同様に、窒素原子の原子価は、アンモニアNH3の結合からわかるように3価である。このようにみると、元素の周期表における族の数がそのまま原子価の値に対応するようにみえる。実際、第2周期の元素についてはおおむねこの考え方が対応する。
すべての元素は水素と直接結合するとは限らないので、そのような場合には、塩素の原子価を1価、酸素のそれを2価として、それらとの化合物の原子数の比を求め、その元素の原子価を算出する。
各元素の原子価には電気的な正負の区別をつけたほうが便利であり、元素の電気陰性度が正負の区別の目安となる。たとえば、水素原子の原子価を正の1価とすれば、酸素、塩素の原子価はそれぞれ負の2価、1価である。しかし、多くの元素は同時に正負の両原子価を示すことがある。たとえば、塩素の負原子価は塩化水素の結合から1価のみであるが、過塩素酸HClO4では塩素の原子価は正原子価7となる。このように、各元素の原子価はかならずしも一定の値をもたない。
硫黄(いおう)の場合も同様で、硫化水素H2Sから負原子価は2価であるが、正原子価は2価、4価、6価をとりうる。
原子価は原子の結合する能力であるが、原子が結合するその数のように考えてはならず、あくまでも単なる結合する割合である。しかし、炭素化合物(有機化学)を学習する際には原子価の概念がきわめて便利である。炭素の原子価を4、水素、酸素、窒素の原子価をそれぞれ1、2、3価とするとき、メタンはCH4であり、メタノール(メチルアルコールCH3OH)はメタンの水素の一つがヒドロキシ基-OHと置換したことが原子価の概念で容易に理解できるし、またメチルアミンCH3NH2はメチル基-CH3とアミノ基-NH2の結合からなることも官能基ごとの原子価を用いて容易に理解できる。
[下沢 隆]
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原子価【げんしか】
2種の原子が化学結合によって結合するとき,その結合する原子数の比は幾つかの決まった値(簡単な整数比)をとることが多く,水素を基準にとって1としたときのこの値を原子価という。たとえばH2OではOは2価,CH4ではCは4価であるといい,NO,NO2,N2O5などでNはそれぞれ2価,4価,5価などの原子価をもつという。すなわちこれらは原子量をその原子の化学当量で割った値に等しい。原子価の概念は共有結合による分子の構造と結びつき,原子価結合すなわち化学結合の概念に発展していった。
→関連項目価電子|酸化数
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原子価
げんしか
valence
化学結合に際して,ある原子が結合しうる水素原子の数。水素と直接化合しない場合でも間接的に求められる。原子価は最外殻電子の数によって決る場合が多い。したがって,これらの電子を原子価電子または単に価電子と呼ぶ。原子価を化学結合の種類によって区別する場合,たとえばイオン結合の場合は正または負のイオン原子価,共有結合の場合は共有原子価などと呼ぶ。混成軌道で化学結合する場合のように,結合に方向性があるときは方向性原子価と呼ばれ,それによって分子の立体構造が決る。原子量を原子価で割った値を当量という。
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原子価
ゲンシカ
valence
分子のなかで,ある元素の原子が形成しうる結合の数を,その元素の原子価という.水素の原子価を一価と定める.水素と化合する元素の原子価の価数は,この原子と結合している水素原子の数と同じになる.水素と化合しない元素の原子価は,化合する相手元素の原子価から間接的に定められる.原子価は,その元素の原子量を化学当量で割った値に等しい.
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げんし‐か【原子価】
〘名〙 ある原子が他の原子何個と結合するかを表わす結合手の数で、分子を形成する原子相互の結合比を示す。ふつう、水素を基準にとり、水素原子n個と結合する元素の原子価をn価とし、直接水素と結合しないものは水素と結合する原子から間接的に決定される。〔電気訳語集(1893)〕
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デジタル大辞泉
「原子価」の意味・読み・例文・類語
げんし‐か【原子価】
ある原子または原子団が他の原子何個と結合しうるかを示す数。通常、水素を標準として、水素原子1個と結合する原子の原子価を1、2個と結合するものを2とし、水素と結合しないものは水素と結合する原子から間接的に決定する。
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げんしか【原子価 valence】
いろいろな化合物の元素組成を調べると,ある元素の原子1個が他の元素の原子何個と結合しているかを知ることができる。このように化合物の中で結合している原子の数の比が決まっているのは,それぞれの原子が一定数の結合のための手のようなものをもっているからで,このような手の数をその原子の原子価という。水素原子1個に対し2個以上結合する原子がないので,水素原子Hの原子価を1とし,他の原子の原子価はその原子1個と結合しうる水素原子の数で決める。
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