十文字峠(読み)じゆうもんじとうげ

日本歴史地名大系 「十文字峠」の解説

十文字峠
じゆうもんじとうげ

大滝村と長野県南佐久みなみさく川上かわかみ村との境にある標高二〇二〇メートルの峠。鞍部での道が十字に交差しているところから命名されたものという。峠付近には奥秩父を代表する原生林が残り、シャクナゲの群落も著名である。秩父地方で出土する縄文時代の鏃は、長野県の和田わだ峠付近で産出する黒曜石を加工したものとされるが、当峠はこの原石の交易路だったとされる。また峠を挟む秩父側と川上村側からは同型式の縄文式土器も出土している。

十文字峠
じゆうもんじとうげ

標高二〇一〇メートル。武州ぶしゆう道ともよばれる道が梓山あずさやまを経て十文字峠へ至り、埼玉県大滝おおたき村へ通じる。佐久側からは三峰講の参詣道であり、秩父ちちぶや江戸に出荷された繭や細美布・佐久駒の関東越えの峠。秩父側からは善光ぜんこう寺参詣の道であり、甲州脇往還への直路すぐじであった。徒歩荷が川上八ヵ村やうみくちなどから集まって峠を下り、返り荷に秩父側の雑貨などが上った。路傍には一町ごとに石造観音像や馬頭観音があったりする。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「十文字峠」の意味・わかりやすい解説

十文字峠
じゅうもんじとうげ

埼玉県西端にある峠。埼玉県秩父市(ちちぶし)大滝(おおたき)地区栃本(とちもと)と長野県南佐久郡川上村梓山(あずさやま)とを結ぶ。標高約2000メートル。かつては中山道(なかせんどう)と甲州街道を結ぶ裏街道の信州往還が通った所で、通行者が多く、栃本には関所があった。十文字の名は峠道と尾根道が十文字に交差することによる。栃本と梓山の間には、旅の安全祈願と道標として、石造観音(かんのん)が1里ごとにつくられたが、現在も残っていて、当時のおもかげをしのばせる。いまは甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)の登山コースとなっており、夏を中心に登山者でにぎわう。付近はシラビソオオシラビソなどの原生林で、秩父側の原生林を切り開き十文字小屋が建てられている。

[中山正民]

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改訂新版 世界大百科事典 「十文字峠」の意味・わかりやすい解説

十文字峠 (じゅうもんじとうげ)

秩父山地西部,埼玉県秩父市と長野県南佐久郡川上村の境にある峠。標高2020m。荒川千曲川分水界にあたり,秩父と佐久を結ぶ重要な交通路と甲武信ヶ岳から三国山に至る縦走路が直交するところから名付けられた。峠付近はコメツガの原生林がみられ,十文字小屋がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「十文字峠」の意味・わかりやすい解説

十文字峠
じゅうもんじとうげ

埼玉県西部の秩父市と長野県川上村との県境にある峠。標高 2020m。荒川千曲川との分水界をなす。地名は甲武信ヶ岳と三国山を結ぶ尾根筋と信州路が直交することに由来。ここを通る信州往還はかつて通行人が多く,東方の栃本には関所が置かれ,栃本から 4kmごとに石造りの観音像が安置された。

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世界大百科事典(旧版)内の十文字峠の言及

【三国山】より

…荒川の支流中津川,千曲川の支流二本木沢,利根川の支流神流(かんな)川の分水嶺をなし,群馬・埼玉側は森林,長野側は草地である。北側に三国峠,南側に十文字峠(2020m)があったが,1966年十文字峠との間の新三国峠に中津川林道(全長18.4km)が開通し,中津川と千曲川の流域を結んでいる。南方に甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)がそびえ,一帯は秩父多摩国立公園に含まれる。…

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