日本大百科全書(ニッポニカ) 「包装」の意味・わかりやすい解説
包装
ほうそう
packaging
JIS(ジス)(日本工業規格)によると、包装とは「物品の輸送、保管、取引、使用などに当たって、その価値及び状態を維持するために、適切な材料、容器などに物品を収納すること及びそれらを施す技術、又は施した状態。これを個装、内装及び外装の3種類に大別する。パッケージングともいう」と定義づけられている。包装は、また古くから梱包(こんぽう)ともいわれているが、この場合は販売促進機能をもたない、輸送包装のことである。アメリカではPackaging is marketing.(包装は販売促進そのものである)という表現があるように、販売促進機能が重視されていることが理解される。
キャラメルを例にとれば、1粒ずつを包んでいるワックス紙が個装であり、これを10粒包んでいる板紙箱が内装にあたり、輸送するための段ボール箱が外装(輸送包装)である。樽(たる)詰の酒は材料である木(杉やオークなど)の香りが酒に移行し、酒の味わいをよくするものであり、このような包装が理想的なものである。しかし、中身に不純物が溶出するような包装は、安全性の面からも絶対に避けなければならない。
[佐々木春夫]
包装の機能
包装の機能は、時代とともに進化するものであるが、現代における包装の機能は以下のとおりにまとめられる。
(1)中身の保護・保全 製品が、生産者から最終消費者の手元に届けられるまでの間の輸送、保管、荷扱い、および消費の段階などで起こるさまざまな障害や危難から、破損や品質低下を防ぎ守るための機能。
(2)取扱いや使用の利便性 輸送、保管、荷役(にやく)、販売、消費の段階などにおけるさまざまな取扱いや使用の利便性のための機能。
(3)販売の促進(商品性) 包装によって商品の価値を高め、販売を促進する機能。プリパッケージ(店頭販売用の事前包装)が一般化し、販売にセルフサービス方式が定着した。これにより、包装は中身を購入者や消費者に適確に伝え、また商品を差別化するための手段となっている。
(4)情報の提供 生産者や内容物などに関するさまざまな情報機能。たとえば、品名、材質、種類、容量、取扱い、産地、原産国、保存条件、対象、使用上の注意、シェルフライフ(包装物品の保存可能期間)、廃棄方法などを説明文、図、表示、色彩などによって購入者や消費者に提供する。
(5)コストの低減 包装することによって物流上のさまざまなコストを低減する機能。
(6)環境との調和 「3R+適正処理」で推進する。具体例として、(a)過大・過剰包装を排した適正な包装(リデュースReduce)、(b)詰め替え、リターナブルなどによる再利用(リユースReuse)、(c)再商品化、再資源化など(リサイクルRecycle)、(d)分別や廃棄物処理の容易さ、無害化処理適正など(適正処理)があげられる。
(7)ユニバーサルデザイン すべての人が、可能な限り最大限利用できるように配慮された包装デザイン。たとえば、選別・識別のしやすさ、開けやすさ・再封のしやすさ、持ちやすさ、中身の取り出しやすさ、注ぎやすさなど。
このなかの(6)環境との調和は、とくに重要となっている。
また、包装の機能は、個装、内装の生活者包装consumer packaging(以前は消費者包装といっていたが、いまでは「生かして活用する生活者」という意味で生活者包装という)と、外装の輸送包装transport packagingによって、求められる機能が異なっている。しかし、包装の保護性は包装の基本的な機能であり、もっとも重要な役割である。内容物を物理的な外力から守り、化学的な変化から中身を遮断し、温度、湿度、臭(にお)い、錆(さび)などから保護することが必要である。次に生活者包装と輸送包装の特記事項を記す。
〔1〕生活者包装によるマーケティング その第一は、前記(3)で示した販売促進(包装の商品性)である。包装の商品性とは、包装が中身と一体になって商品価値を生む機能である。いかに保護性があっても、紙容器入りの高級ウイスキーは商品価値に乏しいことが理解されよう。第二に前記(2)の利便性もきわめて重要な機能である。缶ビールをはじめ、缶ジュース、缶コーヒーなどの飲料は、蓋(ふた)にイージーオープン機能をもったステイオンタブstay-on-tab(開缶後もタブが缶から離れないもの)がつけられることによって、使用者から歓迎されている。またエアゾール包装という、殺虫剤やヘアーラッカーに使われているバルブを押すだけで中身が霧状に飛び出す包装も、代表的な利便性の包装であり、包装によって価格が高くなっても機能で売れている。第三は(4)の包装の表示機能(情報の提供)である。食品の製造年月日や賞味期限は消費者にとって重要であり、電子レンジやオーブンなどでの調理法の表示も有用である。バーコードによるPOS(ポス)(point of sales)マークは、スーパーマーケット、コンビニエンス・ストアだけでなく、消費者にとってもチェック・アウト・タイムが速くなり、レジスターミスがなくなるなどの利点がある。
〔2〕輸送包装の種類と機能 種類、機能を大別すると次の三つになる。
第一は、生活者包装された商品を、段ボール包装して、スーパーマーケット、デパート、コンビニエンス・ストア、一般小売店に輸送するための包装である。平成に入って、輸送用段ボール箱の一部をカットするなどの作業だけで店頭展示ができるような形態と、段ボールの美粧化が求められるようになった。
第二は、テレビや冷蔵庫などの大型商品の包装で、内部を発泡スチロール、ウレタンフォームなどで緩衝固定し、その上を段ボール包装するものである。輸送包装がそのまま消費者に配送される、兼用の機能を備えたものがこの分類である。
第三に、自動車部品、電機部品のように、部品メーカーから組立工場に送られる輸送包装や、小麦粉、砂糖などの加工食品原料を輸送する、合成樹脂などの大型輸送用のフレキシブル・コンテナ包装がある。この分野には、部品輸送段ボール、原料輸送の重包装袋、ドラム缶など、原料輸送のための中間輸送包装が含まれる。
[佐々木春夫]
包装の歴史
外国
包装の起源は紀元前3000年にさかのぼることができる。メソポタミアでは女性が化粧用の桶(おけ)を持っていたといわれ、油性香水の容器なども当時使われていた。また古代エジプトで化粧品や軟膏(なんこう)の容器が使われていたことがパピルスの書物などによって知られている。ペルシア人は前530年のペルシア戦争の際、土の壺(つぼ)で水を輸送したといわれ、この壺が壊れやすいため、ブタの皮を縫い合わせた皮袋による包装が考案された。
ガラス瓶は1600年代に土の壺や皮袋にかわって包装容器として使われ始めた。当時はきわめて高価なものであったが、やがてアメリカで製瓶工場が建てられ、1889年に輪転式の自動製瓶機が発明され、本格的にガラス瓶が包装容器として使用された。1730年にドイツ、イギリスでブリキ業が始まり、フランスで食品の熱殺菌による瓶詰の包装が誕生した。1798年には石版印刷の発明により、色付きラベルの使用が普及し、包装にとって重要な印刷技術の導入が行われた。1494年イギリスで最初の製紙工場が建設され、丸網式の機械製紙が始まり、1799年には円網(まるあみ)抄紙機の発明によって紙の大量生産が行われるようになった。この結果、包装分野への紙の進出が本格化した。1860年には段をつけた紙がイギリスで帽子の汗取りに使われ(後の段ボール)、1882年には両面段ボールが完成して輸送容器材料として認められた。1860年代に製袋工業がおこり、製袋機の発達が袋の使用を増大させるに至った。さらに1889年には今日の花形包装であるエアゾール容器の特許が認められ、香水のスプレー包装として使用されるようになった。
第二次世界大戦時に、広範な作戦地域への物資の輸送を果たすため、錆、カビ、衝撃から物を保護する包装技術が開発され、野戦食糧としてインスタント化が盛んに行われた。戦時中貴重品であったポリエチレンをはじめとするプラスチック・フィルムが漸次包装分野に進出することとなり、プラスチック・フィルムの加工機械の発達と、これを使用する自動包装機械の開発が進み、包装の自動化が達成された。
1950年にアメリカで発明されたポリエチレンの溶融押出しによるラミネーション技術は近代包装に革命的な貢献をしている。プラスチックの中空成型技術の発展は洗剤や食用油の包装にプラスチックボトルの使用を可能にし、真空成型機械の開発は食肉包装、雑貨包装などに活用されている。また1962年に実用化された静電写真印刷法は今日の包装印刷として威力を発揮している。
[佐々木春夫]
日本
日本でも包装の起源である甕(かめ)や壺が数千年の歴史をもっている。また大陸からは、正倉院宝物にみられるような多くのガラス容器が献上されている。屏風(びょうぶ)、絵巻物などのほか、太刀(たち)・槍(やり)などの武器のような高価なものの輸送に使用された木箱、漆を塗ったつづらなども包装容器といえよう。また、いまに伝わる包装用の籠(かご)も容器としての歴史は古く、昔は木炭・果実などの輸送に使われていた。日本で発明された理想的な包装容器としては俵があり、米・小麦・野菜・果実包装のほか、硫黄(いおう)などの鉱物輸送にも用いられていた。同じく理想的な容器として現在も生き続けている酒樽は、内容物の酒に樽の風味を与えるものとして比類のない優れた容器といえる。また、風呂敷(ふろしき)は便利な布製包装として広く使用され、世界的にも有名となっている。
瓶詰包装、缶詰包装、段ボール包装、プラスチック包装など近代包装を支えている多くの包装技術は、明治以降海外から導入され、日本的に改善され発展したものである。日本は高温多湿地帯に位置する包装先進国であり、防湿包装、真空包装、脱酸素包装、生鮮食品包装では、世界の包装業界をリードするまでの技術力を備えている。
[佐々木春夫]
包装材料・容器の技術革新
(1)紙・板紙包装 紙は袋や包装紙として古くからの包装材料であり、板紙カートンは菓子やせっけん箱などに使用されていたが、これらの用途は装飾的な役割でしかなかった。1940年アメリカでミルクカートンが、1955年にスウェーデンでテトラ・パック社が成功して以来、紙・板紙は、ポリエチレンの押出しコーティングによる複合材料化によって、ミルクやジュースの液体容器として成功するに至った。日本では1984年(昭和59)、板紙、PE(ポリエチレン)、PET(ペット)(ポリエチレンテレフタレート)、それにアルミ蒸着など7層の複合材料でコンポジット缶をつくり、ジュースの大量充填(じゅうてん)包装に成功している。また1978年ごろから市場に出回った、電子レンジでそのまま調理できるオーブナブル・パッケージの成功も大きな成果をあげている。輸送包装としての段ボールも、ライナー(段ボールの外側の板紙)に多色のプリプリント(事前印刷)をして多色段ボールをつくることに成功し、生活者包装用として使われるほか、酒やワインの、バッグ・イン・ボックス(プラスチック内袋入り段ボール)として液体の10リットル、20リットルという大型包装も可能となった。2009年(平成21)の包装材料出荷金額のうち、紙・板紙はトップの構成比42%(2兆4623億円)を占めている(一部推定値)。
(2)プラスチック包装材料 プラスチック包装材料は近代包装の中枢を占めるにふさわしく、日本の2009年の構成比は30%と、紙・板紙に次いで第2位を確保している。用途としては、フィルム、シートが大きな数量を占め、高度のガス遮断性をもった多層シートの開発に新技術がみられる。アメリカのコカ・コーラ社の成型機は日本のPETボトル・ストレッチ・ブローマシン(熱可塑性樹脂を加熱溶融しパイプ状に押し出し、金型内で冷却させてボトルやチューブの容器をつくる成型機)であり、高度のバリヤー性をもった共押出しの多層PETボトルも技術が完成している。
(3)金属包装材料 2009年の金属包装材料は出荷金額構成比の16%である。これは、ビールを中心としたアルミ缶に採用されていることによる。金属包装の出荷金額は2005年以降はマイナス成長となっている。
[佐々木春夫]
包装と環境
日本では1997年度、年間5310万トンものごみが一般廃棄物として家庭から排出されたが、このうち「容器・包装(入れ物と包むもの)廃棄物」が容積比で約60%を占めていた。こうした「容器包装廃棄物」を「資源」へよみがえらせるために1997年4月、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(通称、容器包装リサイクル法)が一部スタート、さらに3年後の2000年4月、全面実施となった。これら施行の概要は、次のとおりである。
〔1〕再商品化の対象および方法 1997年4月からは、ガラス瓶とPETボトルが対象とされた。ガラス瓶はカレット(溶解用ガラスくず)化した後ふたたびガラス瓶として再商品化する。PETボトルはペレット(球粒状物)化などをした後再商品化する。
2000年4月からは、プラスチック製容器包装(発泡スチロールトレイなど)、紙製容器包装が再商品化の対象に加わった。プラスチック容器包装は、プラスチック原材料などとして再商品化されるほか、油化、高炉還元、ガス化、コークス炉化学原料化の手法を用いて再商品化される。また紙製容器包装は選別によって、製紙原料等、建築ボード、古紙解繊物等として再商品化され、あるいは燃料化される。
〔2〕再商品化義務の対象業者 対象業者は、(1)容器の利用事業者(容器を利用して販売等を行う事業者)、(2)容器の製造事業者(容器そのものを製造する事業者)、(3)包装の利用事業者(包装を利用して販売等を行う事業者)、としている。1997年4月からの実施分については、これらの事業者のうち大企業のみでスタートし、2000年4月からは中小企業も義務が課せられている。また小規模事業者は義務が免除されている。
再商品化の基本は既述のとおり「3R+適正処理」で、2009年時点では、金属容器、ガラス容器、段ボール包装についてはほぼ対策が確立し、PETボトルもかなり進んでいる。問題は、その他紙製容器包装、ポリ塩化ビニルおよびその他プラスチック容器包装の再商品化である。このためには、消費者の理解と協力による分別回収の向上がポイントとなっている。なお、2001年4月から材質識別マークの表示が義務づけられた。
[佐々木春夫]
問題点と将来の動向
(1)包装の問題点 日本の包装産業はアメリカに次いで世界第2位であり、2009年は包装材料が5兆8592億円(出荷金額)、包装機械が4394億円(生産金額)と、合計6兆2986億円に達する産業に成長している。しかし、包装産業の規模は、1974年までは国民総生産(GNP)の2%であったのに対して、2009年には国内総生産(GDP)の1.3%まで低下している。循環型社会形成指向と景気低迷によって、包装対象製品の量的拡大が望めなくなったことが大きな要因である。今後とも省資源と無公害化の流れから、包装需要の頭打ちが予測される一方、包装の機能向上、ファッション化による新しい価値の創造から、明るい未来を展望する意見もある。
(2)包装産業の未来 機能性包装材料の性能が、一段と向上するものと思われる。酸素吸収性、吸湿性、透明ハイバリヤー性、ガス選択性、鮮度保持性などの優れた機能により包装材料を減少させ、食品等の品質安定に寄与し、結果として環境対策、付加価値の向上に貢献する。土中や水中の微生物によって二酸化炭素と水に分解される生分解性プラスチックは、環境にやさしい包装材料として、将来、大いに期待されており、安全性が確認されれば、食品用の容器、包装材料として活用されるものと思われる。その他、ダイオキシン抑制機能を有する包装材料が注目されている。ごみ焼却場からのダイオキシン類の発生が大きな社会問題となっているが、プラスチック・フィルム中に活性酸化鉄を配合することで、焼却時のダイオキシン類を元から抑制する技術が開発された。これまで厄介物(やっかいもの)扱いされ、埋立て処分されることさえあった使用済みプラスチック・フィルムを、焼却することでむしろ周囲のごみまでクリーン燃焼させるという本技術は、既存設備で容易に生産できるという汎用(はんよう)性と相まって、ダイオキシン対策への有力な手段として注目されている。また、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)手法の発展により、包装材料、包装プロセスの絶対評価が可能となることも考えられる。
[佐々木春夫]
『三津義兼著『包装が食品開発の決め手』(1983・日本食糧新聞社)』▽『日本包装技術協会編・刊『包装材料の基礎知識』(1990)』▽『日本包装技術協会編・刊『包装技術便覧』(1995)』▽『産業リサイクル事典編集委員会編『産業リサイクル事典』(2000・産業調査会)』▽『日本包装学会編『包装の事典』(2001・朝倉書店)』▽『日本包装技術協会編・刊『包装・・・? 知ってなっ得』(2004)』