副腎癌

内科学 第10版 「副腎癌」の解説

副腎癌(副腎皮質)

定義・概念
 副腎皮質癌(adrenocortical carcinomaACC)は,全悪性腫瘍の0.02%を占めるまれな腫瘍である.50~80%のACCはホルモン産生性である.
分類
 ACCのステージ分類として,ENSAT(European Network for the Study of Adrenal Tumors)によるTNM(tumor-node-metastasis)分類がよく用いられる(表12-6-16).ステージIとⅡは各々,腫瘍の大きさが≦5 cmおよび>5 cmの限局した腫瘍と定義されている.ステージⅢは,周辺組織に浸潤があり,リンパ節転移または下大静脈や腎静脈の腫瘍血栓を認める腫瘍である.ステージⅣは遠隔転移がある腫瘍である.
原因・病因
 p53遺伝子(染色体17p13)変異によるLi-Fraumeni症候群や,染色体11p15.5(IGF-Ⅰ遺伝子などが局在)に病因遺伝子があるBeckwith-Wiedeman症候群の報告がある.孤発例の副腎癌でもIGF-Ⅱの過剰発現の報告がある.
疫学
 全悪性腫瘍の0.02%を占めるまれな腫瘍である.好発年齢は,5歳未満と40~50歳代の二峰性のピークを示す.まれな腫瘍であるが,5年生存率は20~45%ときわめて低い.小児例のACCでは成人例よりアンドロゲン産生などの機能性腫瘍が多い.
病理
 ほかの臓器の癌と異なり,多数の病理組織学的因子を総合的に判断するscoring systemとして,Weissの指標が良悪性の鑑別に用いられる(表12-6-17).9項目のうち,3項目以上の所見が陽性であれば副腎皮質癌と診断される.
病態生理
 ACCの50~60%は,機能性腫瘍であり,最も多いのはCushing症候群(男性化を伴う例と伴わない例がある)である.高コルチゾール血症を30%,高アンドロゲン血症を20%,高エストロゲン血症を10%,高アルドステロン血症を2%,複数のホルモン過剰を35%に認める.典型的には,体重増加,筋力低下,易出血性,神経過敏,不眠症などの症状が3~6カ月の経過で急速に現れる.アンドロゲン過剰を伴うと,皮膚の菲薄化や筋萎縮などが軽減される.
臨床症状
1)自覚症状:
ホルモン過剰症状があれば,Cushing症候群(筋力低下,神経過敏,不眠症など),男性化または女性化症状,ミネラルコルチコイド過剰症状などが現れる.また,非ホルモン症状として,腹痛,腰痛,体重減少,脱力,発熱,腹部腫瘤による腹満感などがある.
2)他覚症状:
高コルチゾール血症による高血圧,糖尿病,体重増加,易出血性,皮膚の菲薄化,筋力低下,高アンドロゲン血症による多毛,声の低音化,月経異常,高エストロゲン血症による女性化症状,高アルドステロン血症による高血圧,低カリウム血症などが現れる.
検査成績
 Cushing症候群の所見として,血清コルチゾール高値,尿中遊離コルチゾール高値,夜間血清コルチゾール高値(日内変動の消失),デキサメタゾン抑制試験(1 mgおよび8 mg)における血清コルチゾールの抑制の消失などを認める.アンドロゲン過剰の所見として,デヒドロエピアンドロステロンDHEA),DHEA-サルフェート(DHEA-S),アンドロステンジオール,アンドロステンジオンプレグネノロン,17-ヒドロキシプレグネノロン,17-ヒドロキシプロゲステロン,11-デオキシコルチゾール,尿中17-OHCS,17-KSの高値を認める.
 これらは,腫瘍組織における多種類のステロイド合成酵素活性低下(3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ,11β-ヒドロキシラーゼ,21-ヒドロキシラーゼなど)による不完全なステロイド産生を反映している.
診断
1)内分泌検査:
早期の血清コルチゾール高値,デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)高値,ACTH低値,血漿アルドステロン濃度高値,血漿レニン活性低値を確認する.24時間尿中遊離コルチゾールやアルドステロン排泄薬を2~3回反復検査する.1種類以上の副腎皮質ホルモンの過剰産生を認めるタイプと,内分泌学的に非活性(ホルモン値に異常を認めない)タイプに分けられる.
2)画像検査:
超音波検査,CT,MRI,アドステロールシンチグラフィ,PETなどが用いられる.超音波検査は,安価で,囊胞状病変と固形病変の鑑別に適するが,小さい腫瘍の検出感度はCT,MRIより劣る.腹部および骨盤CT(2~3 mm幅のthin slice-CT)を最初に行うべきである.副腎癌は,造影CTで不均一な造影効果や,壊死,出血像,石灰化を認める.CT値(Hounsfield unit:HU)を用いた鑑別方法では,非造影CTで10HU未満,造影CTで30HU未満ならば良性腫瘍(皮質腺腫)の可能性が高く,それ以上でACCを疑う.MRIは,CTと比べると下大静脈への腫瘍の進展などの検出能にすぐれる.アドステロールシンチグラフィは,70%のACCでは集積の欠損を認めるが診断意義は少ない.最近の新しい検査としては,FDG(fluoro-deoxy-glucose)-PETがあり,良悪性の鑑別にも有用である.また,11C-metomidate-PETは,腫瘍が副腎皮質由来であれば集積を認めることから用いられる.
3)経皮的副腎生検(fine needle biopsy):
良悪性の鑑別はできないことから,原発性副腎癌の診断には用いられない.しかし,癌の既往(肺癌,乳癌,腎臓癌など)がある患者でほかに腫瘍を認めず,CTで不均一な腫瘍(>20HU)を認めるときは,転移性副腎癌の鑑別の目的で生検を行うことがある.
鑑別診断
 副腎偶発腫瘍の精査として,副腎癌を鑑別する場合が多い(上記診断の項を参照). 内分泌検査および画像検査を組み合わせて行う.
経過・予後
 遠隔転移は肝臓と肺に多い.ステージI,Ⅱの多くは,手術適応となり,副腎摘出術が行われるが,再発は非常に多い.術後1年間は,3カ月ごとにCTによるステージ分類の確認と,ホルモン濃度(機能性腫瘍)のモニタリングが必要である.術後2~5年は,3~6カ月ごと,術後5年以降は1年ごとに経過観察を行う必要がある.骨シンチグラムや脳MRIは症状により考慮する. 副腎皮質癌は多様であり,遠隔転移しても10年以上生存する例から,数カ月で急速に進展して死に至る例がある.5年生存率は23~60%と多様であり,初期のステージであることと,治癒切除が行われることが良好な予後の指標である.
治療・予防・リハビリテーション
1)手術療法:
完全な外科的切除が唯一の治療法である.ステージI,Ⅱでは腹腔鏡下副腎摘出術により開腹下摘出術と同様に手術可能であり,ステージⅢでは,開腹下摘出術が推奨される.ACC専門の外科医による手術がのぞまれる.
2)アジュバント治療:
ACCは完全切除ができても再発率が高く,薬物治療によるアジュバント治療としてミトタン(o,p'-DDD,1,1-dichloro-2-(o-chlorophenyl)-2-(p-chlorophenyl)ethane)を投与することにより,再発なしの生存期間が有意に延長する.ミトタンは,副腎皮質細胞のミトコンドリアの11β-ヒドロキシラーゼ,コレステロール側鎖切断酵素を阻害し,ミトコンドリアの壊死を誘導する.ミトタンは,1.5g/日より投与開始し,投与後8週間で血中濃度がプラトーに到達し,14~20 mg/Lのときに腫瘍縮小効果がある.副作用には,消化器症状(悪心,嘔吐,食欲不振,下痢),精神神経症状(不眠,嗜眠),皮疹などがある. 再発例に対しては,初回手術から6~12カ月以内で完全摘出が可能な例のみ再手術を行い,術後ただちにアジュバント治療を行う. 遠隔転移を伴う進行例に対しては,ホルモン過剰症に対してのみ腫瘍減量術(debulking surgery)の適応となる.
3)放射線療法:
副腎皮質癌に対する放射線療法は報告が少ないが,あまり有効とする報告はない.しかし,骨転移,脳転移などの転移巣や,局所再発部位に対して,姑息的に行われる.高周波切除法(radiofrequency ablation:RFA)は,高周波電流の誘電加熱により腫瘍を熱凝固壊死させる治療法であり,手術療法に替わる新しい局所療法であり,転移病変に対して有用との報告がある.[柴田洋孝]
■文献
Fassnacht M, Libe R, et al: Adrenocortical carcinoma: a clinician’s update. Nat Rev Endocrinol, 7: 323-335, 2011.
Fassnacht M, Terzolo M, et al: Combination chemotherapy in advanced adrenocortical carcinoma. N Engl J Med, 366: 2189-2197, 2012.
Terzolo M, Angeli A, et al: Adjuvant mitotane treatment for adrenocortical carcinoma. N Engl J Med, 356: 2372-2380, 2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報