デヒドロエピアンドロステロン

内科学 第10版 の解説

デヒドロエピアンドロステロン(加齢とホルモン/ホルモン補償療法)

(1)デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone:DHEA)
 副腎皮質ホルモンである血中DHEAとその硫酸抱合体のDHEA-sulfate(DHEA-S)は,性ステロイドの前駆体ステロイドである.男女とも思春期から25歳頃までをピークとし,以後加齢とともに直線的に減少という,老化指標ともいうべき特徴的な加齢変動を示す(図12-17-2)(Rothら, 2002).興味深いことに米国ボルチモアの住人を対象にした調査研究(図12-17-3)やわが国の住民研究では,いずれも男性においてのみ,DHEA-Sは長生きグループで明らかに高いという結果が得られ,DHEAは少なくとも男性では長生き指標でもあることが示唆されている.DHEAには,肥満,糖尿病,発癌動脈硬化,骨粗鬆症,自己免疫疾患などに対して,これらを改善する生体にとってさまざまな有益作用がおもに動物実験レベルで報告されている.DHEAは経口投与が可能であり健康食品としての入手は可能であるが,医薬品ではないためヒトにおける臨床効果の検証はいまだ十分ではない.外国では老年者へのDHEA補充投与により健康感の改善や皮膚への効果(皮脂増加,表皮萎縮改善,色素沈着改善など)などが報告されている.いくつかの臨床研究を総合すると,高齢者へのDHEA補充は,体脂肪などの体構成は変化させないが,女性の骨密度は増加させることが比較的,再現性をもって報告されている.DHEAは閉経後女性においては骨組織などの末梢組織でアロマターゼ活性によりエストロゲンへと変化し,女性の骨量維持に貢献している可能性がある.[柳瀬敏彦]
■文献
岩本晃明,他:日本人成人男子の総テストステロン,遊離テストステロンの基準値の設定.日泌尿会誌,95: 751-760,2004.
Roth GS, et al: Biomarkers of caloric restriction may predict longevity in humans. Science, 297: 811, 2002.
柳瀬敏彦,村瀨邦崇:アンチエイジングとしてのホルモン補充療法GH, DHEA, テストステロン−. 臨床と研究,87: 515-520, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

化学辞典 第2版 の解説

デヒドロエピアンドロステロン
デヒドロエピアンドロステロン
dehydroepiandrosterone

(3β)-3-hydroxyandrost-5-ene-17-one.C19H28O2(288.43).略称DHEA.デヒドロイソアンドロステロンともいう.男性ホルモンの一つ.副腎皮質の網状層から分泌される.コレステロールスチグマステロールジオスゲニンなどの17位の側鎖の化学的分解,微生物発酵による分解で得られる.白色結晶.融点140~141 ℃(針状晶),152~153 ℃(葉状晶).+11°(エタノール).エタノール,エーテルに可溶,クロロホルム,石油エーテルに難溶.男性ホルモンのテストステロン,タンパク同化ホルモン,発情ホルモンなどの合成中間体として重要な化合物で,ホルモンの母とよばれることがある.弱い男性ホルモン作用がある.デヒドロエピアンドロステロンの血中濃度は約20歳で最高となり,その後,加齢とともに減少するが,歳をとっても健康な人はこのホルモン濃度が高い傾向があることから,老化防止作用があるのではないかと注目されている.[CAS 53-43-0]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のデヒドロエピアンドロステロンの言及

【男性ホルモン】より

…男性ホルモンが女性で分泌しすぎると,音声の低下,皮下脂肪の減少,月経異常などをひき起こすほか不妊になる。なお副腎皮質から分泌される男性ホルモンはデヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンなどで,これらは副腎性アンドロゲンといわれ,その分泌は脳下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモンACTHによって支配されている。副腎性アンドロゲンの男性ホルモンとしての生物活性は,精巣から分泌されるテストステロンに比べると弱い。…

【副腎皮質ホルモン】より

…副腎皮質から生成・分泌されるステロイドホルモンの総称で,同じ作用をもつ合成物質を含めてコルチコイドcorticoidまたはコルチコステロイドcorticosteroidともいう。副腎皮質ホルモンには,糖質コルチコイド(グルココルチコイドglucocorticoid)であるコルチゾール,コルチゾン,鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイドmineralocorticoid)であるアルドステロン,副腎性アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンなどがある。コルチゾール,コルチゾンは,肝臓におけるタンパク質からの糖新生を促進するほか,抗炎症・抗アレルギー作用などを示す。…

※「デヒドロエピアンドロステロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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