冴・冱(読み)さえる

精選版 日本国語大辞典 「冴・冱」の意味・読み・例文・類語

さ・える【冴・冱】

〘自ア下一(ヤ下一)〙 さ・ゆ 〘自ヤ下二〙 (少しも濁りがなく純粋である意)
① しんしんと冷える。冷え込む。《季・冬》
※後撰(951‐953頃)春上・二〇「白玉をつつむ袖のみなかるるは春は涙もさえぬなりけり〈伊勢〉」
源氏(1001‐14頃)総角「霜さゆるみぎはの千鳥うちわびてなくね悲しき朝ぼらけかな」
② 光、音、色などが、冷たく感じるほど澄む。また、まじりけがないものとしてはっきり感じられる。澄みきる。《季・冬》
※千載(1187)夏・二一〇「山かげや岩もる清水音さえて夏のほかなるひぐらしの声〈慈円〉」
平家(13C前)一〇「松の梢に風さえて」
気持が純粋で澄みきる。
毎月抄(1219)「万葉はげに代もあがり、人の心もさえて」
④ 目や頭の働き、神経、気持などがはっきりする。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「眠られぬ儘に過去(こしかた)将来(ゆくすゑ)を思ひ回らせば回らすほど、尚ほ気が冴(サエ)て眠も合はず」
⑤ 技術があざやかである。未熟な点がなく、すぐれている。水ぎわ立つ。
※黄表紙・三幅対紫曾我(1778)「ずんとさへましたもの」
⑥ にぎやかである。はなやかである。興に乗る。
浄瑠璃心中紙屋治兵衛(1778)上「紙屋仲間の御参会、さへるのさへるの」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「昇の来て居ない時は、おそろしい冴えやうで〈略〉さまざまに騒ぎ散らす」
⑦ (⑥が打消の語を伴って用いられ) 気持が盛り上がらない。すっきりしない。また、気がめいるようである。ぱっとしない。物足りない。
洒落本・瓢金窟(1747)「嗟遊楽之不一レ(サヘざることを)
多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「元を敵手(あひて)世帯を持ってゐた所が、一向に冴えない話だ」

さえ【冴・冱】

〘名〙 (動詞「さえる(冴)」の連用形の名詞化)
① 澄みきること。光、色、光沢寒気などのすんでとおること。特に寒冷感を伴って季語として用いられる。《季・冬》
紫式部日記(1010頃か)寛弘五年一一月「うきねせし水の上のみ恋しくて鴨の上毛にさえぞおとらぬ」
② 頭の働きや技術などが、あざやかですぐれていること。あざやかさ。
※洒落本・禁現大福帳(1755)五「似声(こはいろ)身ぶり舞雲雀より冱(サヘ)の有末社一人」
江戸時代遊里語で、興が増すこと。また、座敷での遊興酒宴
※洒落本・辰巳之園(1770)「『もし七兵衛さん、誰ぞお呼なんし』『今夜は、さへ一と通りにしやう』『さへ一と通りの名方』」

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