写真植字機(読み)シャシンショクジキ(英語表記)phototypesetting(photocomposing)machine

デジタル大辞泉 「写真植字機」の意味・読み・例文・類語

しゃしんしょくじ‐き【写真植字機】

写真植字のための機械。ネガまたはポジに作られた文字盤から文字を選び出し、1字ずつ写真操作によってフィルム印画紙上に感光させ、印刷の版下を作る。レンズにより拡大・縮小・変形ができる。

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精選版 日本国語大辞典 「写真植字機」の意味・読み・例文・類語

しゃしんしょくじ‐き【写真植字機】

〘名〙 写真植字を行なう機械。母型の文字を陰画にした文字盤(ガラス板)を、レンズによって拡大、縮小、あるいは変形してフィルム上に写しとるもの。レンズにより一個の文字を何種類かの大きさに変えることができるうえ、さらに特殊レンズによって長体、平体、斜体などの変形文字をつくることができる。主として平版凸版などの版下文字として使用される。写植機

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改訂新版 世界大百科事典 「写真植字機」の意味・わかりやすい解説

写真植字機 (しゃしんしょくじき)
phototypesetting(photocomposing)machine

写真技術を利用して印画紙またはフィルム面に文字を並べ文章などを作る機械。写植機とも略称する。この文章写真を原稿として複写し製版すれば,活版印刷物と同じような複製を作ることができる。また,テレビカメラでこの文字を撮影すれば,テレビ受像面に文字を迅速に現すことができる。言葉をかえていえば,写真応用のタイプライターである。日本文の写真植字機は世界でもっとも早く実用化された。1924年石井茂吉と森沢信夫とが協力して研究し,29年ころ実用機5台を東京の印刷工場で試用してからしだいに改良が加えられ,その有用性が認められた。

 写真植字機は,光源,文字盤,レンズ系,暗箱,送り装置などから成る。文字盤は約5mm四方のネガティブ文字270ほどを集合したガラス板で,その数十枚を平面枠におさめる。文字の形は明朝体をはじめほとんどすべての活字書体が作られている。この文字盤を前後左右に平面内を手動で移動させ,印字すべき文字をレンズの下にもってくる。レンズの光軸上,文字盤の下に光源があり,文字の像はレンズを通って暗箱内にある円筒に巻かれた印画紙またはフィルム面に写し出される。レンズ部には20本ほどのレンズ筒が配列されているので,レンズ筒の交換により活字の大きさでいえば約5ポイント大から約42ポイント大まで20種ほどの大きさの文字を作ること(印字)ができるほか,かまぼこ形の補助レンズをさし入れることによって斜体,長体,平体などの変形文字も印字できるので,1種の文字を数十種に変化させて写すことができる。写植文字の大きさは級数で表される。すなわち,0.25mmを単位としこれを1級とするもので,したがって,たとえば12級の文字は3mm角の大きさとなり活字のほぼ8ポイント(文庫本などに多用)に相当する。

 印字操作はレバーを押して行い,文字盤の位置が固定し,シャッターが開閉し,レバーがばねの力で上がるとき,その運動がギヤを経て暗箱内の円筒を1字分だけ回転させて次の印字に備える。1行を印字し終われば行送り装置によって次行の位置に移す。これらの印字は操作者には見えないので,暗箱の前面にある点字盤にスタンプインキで点を打つことによって印字されたことを確認する。印字を終わった感光材を現像すれば,白地に黒のポジティブ文字が得られるので,これから凸版,オフセット,グラビアなどの印刷版を製版する。すなわち活版を作ることなしに文字印刷ができるので,加熱鋳造活字を使わないという意味でコールドタイプcold-typeとも呼ばれている。

 戦前この写真植字機は,特殊の分野に利用されていたにすぎなかったが,第2次大戦後,活字の戦災による焼失,写真製版法の進歩,オフセットの興隆などによって広く使用されるようになった。パンフレット,カタログ,ちらしなどの商業印刷物はもとより,出版物において百科事典,語学辞書,名鑑・名簿類,雑誌表紙,視覚を重視するグラフページに多用され,また文庫本などにも使用されるようになった。これは活版に比べて,機械設備の場所をとらない,設備費が安い,操作は衛生的で女子にも向く,活版ほどの習熟時間を要しない,印字物は軽くて取扱いや保存に便利などの特徴があるためである。また,写真製版法と連結するオフセットやグラビアでは,写真植字の印字をはめこむことが工程中無理なく行えるなどの利点もある。欠点としては,写真植字は活版に比べ出来上がりの印字品質にむらが出やすい,校正の際の訂正・追加に手間がかかるなどの点がある。

 外国の写真植字機は,かなり古くからいろいろの考案があったが,アメリカのフォトセッターFotosetterの開発によって第2次大戦後はじめて実用化された。これは自動鋳植機ライノタイプの機構を応用して,1字ずつの透明ネガティブ文字をもつ単母型を1行分機械的に集め,その全長を仮定したのち,自動的に1個ずつの母型の文字をフィルムに写していく。このとき定められた1行の長さと仮定されたその行の長さの差がくさび形のカムの働きで語間のスペーシングに配分されて,一定の行長に写す。

日本文の場合,手動の写真植字機では,操作者が原稿に従っていちいちガラス文字盤から必要な文字を探してシャッターレバーを押すので,1時間に千数百字の印字が限度である。これを能率化するため,写真植字機とコンピューターとを組み合わせた電算植字法computer type-setting(略称CTS)が開発され,目ざましい発展を遂げている。電算写植コンピューター写植とも呼ばれ,フォトン,サプトンなどのシステムはこの一種である。電算植字機の基本的な機構は次のようなものである。紙テープにさん孔(1個の文字を十数個の穴の配列で表す),あるいは磁気テープに入力し,このテープを植字機本体にかけると,回転する円盤状の文字盤からテープの指令に従って指定の文字が拾われフィルムにストロボライトで感光される。進歩した装置では,日本文を組むときの約束,たとえば括弧や句読点の位置,図版を挿入するための余白などを別テープによって指令する。テープを作るのはさん孔機またはキーボードといい,編集や校正をする装置は編集機,あるいはブラウン管を利用するのでビジュアルディスプレーターミナルvisual display terminal(略称VDT)と呼ぶ。新聞1ページの体裁も,VDTを見ながらライトペンその他の方法によって編集・校正しながら組むことができ,体裁がきまったところで本体に入力すれば毎分2000字ほどのスピードでフィルム上に文字が並べられる。これを原板として平版に焼きつけ,印刷する。コンピューターとの連係操作ができるので人名索引,電話帳編集,百科事典の編集制作などにもっとも効力を発揮するが,1970年代から一般書籍雑誌,新聞の編集制作に利用されるようになった。欧米では,アルファベットの数が少ないために早くから鉛活字鋳植機に代わって利用されていたが,行末ぞろえの処理の解決法に苦心した。なお,最新の文字作成法として,各文字を多数の点の集合としてコンピューターに記憶させておき,テープ指令により必要な文字を打ち出す方式も採用されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「写真植字機」の意味・わかりやすい解説

写真植字機
しゃしんしょくじき
photocomposing machine; phototypesetting machine

写真植字に使用される装置。文字盤を透過した光がレンズを通して1字1字印画紙またはフィルム上に投影される機構をもち,倍率の異なるレンズ群を交換することによって,1つの文字から大きさの異なる文字が得られたり,補助レンズを付加することによって,長体,平体,斜体などの変化もつけられるようになっている。また図柄を連続的に印字することによって輪郭とか地紋をつくることもできる。コンピュータを活用して,この写植作業を行うことができるため,出版物などでは広く採用されている。

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