保元物語(ほうげんものがたり)(読み)ほうげんものがたり

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

保元物語(ほうげんものがたり)
ほうげんものがたり

保元の乱(1156)を題材にした軍記物語。通常三巻。作者不明。原作は鎌倉時代前期までに成立か。『平家物語』より先出と考えられるが、『平治物語』との先後出関係は未詳。『普通唱導集(ふつうしょうどうしゅう)』によれば、13世紀末ごろには琵琶(びわ)法師の語物であった。多くの伝本が現存し、時代思潮変遷を反映した、ほぼ三段階にわたる作品の変容が認められる。最終段階を代表するいわゆる流布本の成立は、室町時代の1446年(文安3)以降とされる。第二段階以後、『平治物語』『平家物語』との相関関係を深め、とくに前者とは姉妹編的関係を結ぶに至るが、そのため、古くより同一作者説が伝承されてきた。

 合戦は崇徳上皇(すとくじょうこう)と後白河(ごしらかわ)天皇との間で交わされたが、作中、もっとも強烈な個性をもって描かれているのは、上皇方にくみした源為朝(ためとも)である。敗北したとはいえ、既成権威をものともせぬ言動や想像を絶する強弓ぶりは、新興武士階層の力を象徴するかのようであり、日本文学史上かつてなかった明るい超人的英雄像ができあがっている。また、乱後に物語られる敗者側の悲話も大きな比重を占める。親子兄弟が敵対する骨肉相克の戦いであったゆえに生じた悲劇が、わが子義朝(よしとも)に殺される源為義(ためよし)や、幼い遺児を殺害されて入水(じゅすい)するその北の方など、源氏一族のありさまを中心に克明に描かれる。この物語では為朝像を生み出した楽天的視座と悲劇への関心とが明と暗の共存する世界をつくっており、『平家物語』の前段階的作品として位置づけられる。

日下 力]

『永積安明・島田勇雄校注『日本古典文学大系31 保元物語・平治物語』(1961・岩波書店)』『永積安明編『鑑賞日本古典文学16 保元物語・平治物語』(1976・角川書店)』


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