日本大百科全書(ニッポニカ) 「俊寛(能)」の意味・わかりやすい解説
俊寛(能)
しゅんかん
能の曲目。四番目物。五流現行曲。喜多(きた)流は曲名を「鬼界島(きかいがしま)」とする。作者不明。出典は『平家物語』。赦免の使い(ワキ)が船頭(アイ)を伴って出、鬼界島に赴くことを告げる。2人の流人、成経(なりつね)・康頼(やすより)(ツレ)は帰国を祈る神信心の態。それを白眼視する俊寛(シテ)。孤島での生活を悲しむ3人。そこへ赦免の使いが到着する。俊寛はおうへいに赦免状を康頼に読み上げさせる。赦免にひとり漏れた俊寛は、絶望し、せめて九州まで乗せてくれとかきくどく。乗船する人々。袖(そで)にすがり、舟(作り物)のともづなにすがった俊寛も、浜辺に倒れ伏して慟哭(どうこく)する。慰める人々。去っていく船。ひとり残された俊寛。方形の舞台と長い橋懸りをもつ能舞台の、演出効果の際だつ終曲である。極限状態の人間の弱さを描く現在能の名作。「俊寛」という専用面を用いる。打ちひしがれた流人の俊寛、反骨精神のあらわな俊寛、神経質な陰謀家らしい俊寛等々、さまざまな演出の主張がある。なお、「俊寛」の通称で知られる近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『平家女護島(へいけにょごのしま)』二段目「鬼界が島」は本曲によっている。
[増田正造]