使・遣(読み)つかわす

精選版 日本国語大辞典 「使・遣」の意味・読み・例文・類語

つかわ‐・す つかは‥【使・遣】

[1] 〘連語〙 (動詞「つかう(使)」の未然形上代尊敬助動詞「す」のついたもの) お使いになる。
※書紀(720)推古二〇年正月・歌謡「諾(うべ)しかも 蘇我の子らを 大君の 菟伽破須(ツカハス)らしき」
※万葉(8C後)一三・三三二六「朝(あした)には 召して使ひ 夕(ゆふへ)には 召して使ひ 遣(つかは)しし 舎人(とねり)の子等は」
[2] 〘他サ四〙 ((一)から「人を使いとしておやりになる」「使いを命ずる」のように意味が変化して一語化したものか。一説に、「つかう(使)」をサ行四段に活用させて使役性を持つ動詞としたものとも)
[一] 上位者(あるいは官など)が命じて、人をやる・行動させる、また、人に命じて物などを他にやる、などの意を表わし、本来、動作者に対する敬意を含む尊敬語であるが、のちには敬意が失われ、派遣する、与えるだけの場合にも用いられる。
① 使いとして人をおやりになる。御派遣になる。また、上位者の意志で人をおやりになる。
※書紀(720)雄略即位前一〇月(前田本訓)「人(つかひ)市辺押磐皇子のもとに使(ツカハシテ)
※源氏(1001‐14頃)桐壺「親しき女房御乳母などをつかはしつつ、有様を聞こし召す」
② 物などを他へおやりになる。上位者が物を与える。
※竹取(9C末‐10C初)「御歌をよみてつかはす」
阿部一族(1913)〈森鴎外〉「又府外に別荘地を遣(ツカハ)すから、場所を望め」
③ 命じて行動させる。おさせになる。
類聚国史‐七四・九月九日・大同二年(807)九月九日・宣命「弓射都可波須(ツカハス)事は、本より正月の行事なり。〈略〉此の月は、時も涼しく、射礼都可波須(ツカハス)にも便に在り」
④ (動作者への敬意が失せて) 人を派遣する。他へやる。
徒然草(1331頃)二〇九「『その田を刈りてとれ』とて、人をつかはしけるに」
⑤ 「…てつかわす」の形で補助動詞的に用い、尊大な気持をこめて、「…してやる」の意を表わす。「書いてつかわす」「許してつかわす」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)二「支度をして遣(ツカ)はさうから、相応な所を見立ろ」
[二] 対話敬語として、尊者に対するかしこまり改まった表現(会話消息勅撰集などの詞書を含む)に用いる。物や人を、自己が第三者にやる動作や、第三者が自己にくれる動作を表わし、与える対象を低めることによって表現を丁重にし、聞き手を敬う用法となる。
① (自己などが第三者に) やります。くれてやります。また、人などを行かせます。
※古今(905‐914)春下・七八・詞書「あひ知れりける人のまうで来て、帰りにける後に、よみて花にさしてつかはしける」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「はかなきついで作り出でて、消息などつかはしたりき」
② (第三者が自己などに) よこします。くれてよこします。
※後撰(951‐953頃)春中・五一・詞書「おもしろき桜を折りてともだちのつかはしたりければ」

つか・う つかふ【使・遣】

〘他ワ五(ハ四)〙
① 身辺の世話や用事などをさせる。働かせる。
※書紀(720)推古二〇年正月・歌謡「諾(うべ)しかも 蘇我の子らを 大君の 伽破(ツカハ)すらしき」
※伊勢物語(10C前)六五「おほやけおぼしてつかう給ふ女の、色ゆるされたるありけり」
② 物を用いる。ある事に物を役立てる。
※竹取(9C末‐10C初)「野山にまじりて竹を取りつつ万の事につかひけり」
※枕(10C終)六三「扇ふたふたとつかひ」
※徒然草(1331頃)一七四「小鷹によき犬、大鷹につかひぬれば」
③ 湯水で、物や手・体を洗う。また、弁当などを食べる。
※万葉(8C後)一四・三四四六「妹なろが都可布(ツカフ)川津のささら荻あしと人言(ひとごと)語りよらしも」
※銀の匙(1913‐15)〈中勘助〉前「弁当をつかってゐたのを」
④ ことば、知恵、術、法などをあやつる。
※枕(10C終)一九五「男も女もことばの文字いやしうつかひたるこそ、よろづのことよりまさりてわろけれ」
※滑稽本・七偏人(1857‐63)二「お前の旦那が剣じゅつが好で〈略〉お前も些(ちっ)たア遣(ツカ)うンだらう」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉七「声色を遣(ツカ)って歩く人があらうとは」
⑤ (心を)あれこれと働かせる。
※竹取(9C末‐10C初)「かの国の人来なば、たけき心つかう人もよもあらじ」
※徒然草(1331頃)三八「名利につかはれて、しづかなるいとまなく」
⑥ ある手段をとる。
※源氏(1001‐14頃)帚木「げに、そのにほひさへはなやかにたち添へるもすべなくて逃げ目をつかひて」
※徒然草(1331頃)一一〇「いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手をつかはずして」
※浮世草子・西鶴織留(1694)二「留守つかふて」
⑦ 時間・金銭・品物などを消費する。
※宇治拾遺(1221頃)四「寺物を心のままにつかひたる諸寺の別当の」
※日葡辞書(1603‐04)「ザイホウヲ tçucǒ(ツカウ)

つかい つかひ【使・遣】

〘名〙 (動詞「つかう(使)」の連用形の名詞化)
① 他へ出かけてゆき、命令や口上を伝えたり、用事をたしたりすること。また、その人。使者。
※古事記(712)下・歌謡「天飛ぶ 鳥も都加比(ツカヒ)そ たづがねの 聞こえむ時は 我が名問はさね」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「内より御つかひあり。三位のくらゐおくり給ふよし」
※虎明本狂言・二人大名(室町末‐近世初)「私はいそぎの使にまいる御めんなれ」
② 貴人の身の回りの世話などをする人。めしつかい。特に、そばめ。めかけ。
※竹取(9C末‐10C初)「御つかひとおはしますべきかくや姫のえうじ給ふべきなりけりと承て」
③ 神仏に仕え、その命令などを伝えるという動物。つかわしめ。また、天使。
※和漢三才図会(1712)三八「鹿為春日神使
④ 用いること。また、用いる人。特に、術や法などをあやつる人。多く他の語の下につけて用いる。「魔法使い」「剣術使い」「人形使い」など。
⑤ 金銭などを消費すること。また、消費するもの。費用。
※浮世草子・男色大鑑(1687)二「金子百両ありしを〈略〉是を道のつかひにして、源介殿を国元へかへしてたまはれと申置て」

づかい づかひ【使・遣】

〘語素〙 (動詞「つかう(使)」の連用形から) 名詞について、それを使うこと、あるいは、その使いかたの意を示す。「気づかい」「心づかい」「筆づかい」「言葉づかい」など。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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