日本大百科全書(ニッポニカ) 「中谷孝雄」の意味・わかりやすい解説
中谷孝雄
なかたにたかお
(1901―1995)
小説家。三重県に生まれる。東京帝国大学独文科中退。1925年(大正14)、旧制三高時代の友人梶井基次郎(かじいもとじろう)らと同人雑誌『青空(あおぞら)』を創刊。のち佐藤春夫の門に入る。34年(昭和9)、ある時代の青春像を描いた『春の絵巻』が、そのじみで着実な筆致と不抜の境地で、高い評価を得た。翌年、保田与重郎(やすだよじゅうろう)らと『日本浪曼(ろうまん)派』を創刊。第二次世界大戦ではニューギニアに出征。『のどかな戦場』(1967)は、この経験を基に描いた異色の戦争文学である。戦後は、円熟した歴史小説『業平(なりひら)系図』(1957~58)、『才女の運命』(1961)など、また、私小説的作品に『梶井基次郎』(1961)、『招魂の賦』(1967。芸術選奨受賞)、『故郷』(1973)、『桂子(けいこ)』(1978)ほか多数ある。91年には俳句雑誌『鈴』を発刊。
[沖山明徳]
『『中谷孝雄全集』全四巻(1975~76・講談社)』