下肥(読み)シモゴエ

デジタル大辞泉 「下肥」の意味・読み・例文・類語

しも‐ごえ【下肥】

人間の大小便を肥料にしたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「下肥」の意味・読み・例文・類語

しも‐ごえ【下肥】

〘名〙 人間の糞尿を肥料としたもの。しもごい
※俳諧・二息(1693)「下(しもごえ)とるに障子立させ」

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改訂新版 世界大百科事典 「下肥」の意味・わかりやすい解説

下肥 (しもごえ)

人糞尿(じんぷんによう)を肥料にしたもの。江戸時代から肥料としてたいせつに取り扱われるようになり,明治以降もこの状態が続き,第2次世界大戦中は販売肥料の供給が制限されたためとくに重用された。しかし昭和30年代に入り,化学肥料の普及とともに使用は急減した。現在,都市の人糞尿は汚水処理場で処理され(屎尿(しによう)処理),処理されたものの肥料化が試みられている。新しい糞尿は農作物に有害であるだけでなく,病原菌寄生虫卵が混入しているおそれがあり非衛生的なので,一定期間腐熟させてから用いる。この点で,腐熟させずに用いることの多い外国のnight soilとは異なる。下肥の肥料成分は年齢,食物の種類などによって異なり,肉食の場合は窒素とリン酸が多く,カリウムが少ない。下肥は比較的速効性で元肥にも追肥にも用いられるが,塩分が多いので土を酸性化しやすく,腐熟のさいに石灰を加える。
執筆者:

近世には,下屎と書く場合が多い。近世になって封建都市が形成され人口が増加すると,市民の出す屎尿は周辺農村において肥料として広く利用されてきた。都市人口が数千から数万,数十万と人口集中されてくると,多量の屎尿処理は行政担当者の重要な政治課題の一つとなった。周辺農村で商品作物,ことに米作や野菜栽培にこれを有効肥料として利用するに及んで,屎尿肥料は商品化し,その代金をめぐって町方と在方との争いとなった。そのくみ取りが組織化され,在方,町方で株仲間が結成され,両者の間に争いが起こった。行政担当者の仲裁によって規定ができても,これを脱法する者が輩出した。また屎尿船が在方からくみ取りに町方に出かける場合,青物類などの商品作物や縄・わらなどの農間稼商品を積みこむことが起こり,そのことが盛んになると,既存の特権川船仲間の働きを侵害した。行政担当者側は屎尿船や荷車の進出に対して,町方の衛生行政上から寛容な処置しかとれず,在方側の要望を聞きいれることが多かった。

 大坂の場合,町人人口だけでも30万~40万と増大し,屎尿処理に大坂町奉行は苦慮した。市中に青物類を供給する周辺農村では,近世中期になって諸肥料の値段が高騰してくると下屎を大幅に利用することになり,1769年(明和6)〈摂河三一四ヶ村及び河内新田方支配〉の村々の間で下屎仲間を結成して,下屎くみ取りの規制を申し合わせた。町方でも明暦・万治(1655-61)の間,町方で下屎がたまって困る急場の要望に応ずる町方下屎仲間(急掃除人)ができた。下屎需要が高まると,下屎値段をめぐり在・町の下屎仲間の間で争いとなり,しだいに在方下屎仲間が町方下屎仲間を押さえていった。在方下屎仲間は一村単位として加入し,いくつかの近隣村々が集まって組を組織し,このうちから惣代を選出した。仲間内では請入個所(くみ取り個所)を定めたが,下屎株の売買などがあって,村々の請入個所は必ずしも特定の町に固定していなかった。天保期(1830-44)以降,下屎を商品としてその代銀と請入個所の争奪問題が,町と在とで幕末までなん度も訴訟となった。屎船の多かったことは,1826年(文政9)のシーボルトの《江戸参府紀行》にも見えるところで,大坂市中の特権川船や淀川筋特権の過書船の働きを圧殺していった。下屎くみ取り事業は大正期に入って大阪市営となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「下肥」の意味・わかりやすい解説

下肥
しもごえ

人糞尿(じんぷんにょう)を腐熟させたもので、日本では江戸時代以降よく使われるようになり、とくに速効性肥料の乏しかった第二次世界大戦のころには重要な窒素肥料であった。しかし化学肥料の普及により、都市部はいうに及ばず農村においてもほとんど使用されず、廃棄処理に苦労するようになった。現在は下水処理システムから生ずる汚泥となり、その一部が肥料として施用されている。下肥中の成分組成は人種、年齢または都市・農村居住者などの違いによって異なるが、窒素0.5~0.7%、リン酸0.1~0.2%、カリ(カリウム)0.2~0.3%程度を含み、このほか約1%の食塩、少量の石灰、苦土(酸化マグネシウム)、ケイ酸を含んでいる。夏の高温時で1~2週間、冬の低温時で3~4週間貯蔵腐熟させたのち、2、3倍に薄めて施用する。かつて東京、大阪などの大都市近郊の野菜畑では、下肥の連用によって土壌が酸性となり、生育障害の発生がみられた。これは、下肥中に含まれる食塩の作用によっておこるものである。

[小山雄生]

『野崎信夫著『自給肥料堆肥・緑肥・下肥の作り方と与へ方』(1946・遠藤書店)』『加藤貴編『大江戸歴史の風景』(1999・山川出版社)』『礫川全次編『厠と排泄の民俗学』(2003・批評社)』

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百科事典マイペディア 「下肥」の意味・わかりやすい解説

下肥【しもごえ】

自給肥料の一つ。人間の排泄(はいせつ)する糞(ふん)と尿の混合物。腐熟させて使用すると速効性があり元肥にも追肥にも使用された。食塩など各種塩類を含むため,連用すると酸性土壌になる。江戸時代から利用された重要な肥料源であったが,化学肥料の発達と衛生的な理由から使用は減少した。→屎尿処理
→関連項目清浄栽培肥料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「下肥」の意味・わかりやすい解説

下肥
しもごえ
night soil

肥料として使う人糞尿のこと。新鮮な下肥の肥料成分は,普通の日本人の場合,水分 95%,窒素 0.5~0.7%,リン酸 0.11~0.13%,カリウム 0.2~0.3%で,ほかに石灰,苦土,ケイ酸の少量と約1%の食塩から成っている。肥料として濃厚ではないが,速効性があり,基肥,追肥の両方に使われる。新鮮な下肥は作物に有害であり,衛生上も寄生虫などの危険があるので,貯蔵して腐熟を待ってから使用する。夏ならば1~2週間,冬ならば3~4週間で腐熟する。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「下肥」の解説

下肥
しもごえ

人間の糞尿を肥料としたもの。中世には,山城国・河内国などで蔬菜栽培に使用されたようである。近世以降も都市近郊の蔬菜栽培で盛んに使用された。

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世界大百科事典(旧版)内の下肥の言及

【糞】より

…ペルシア人もまた,パンの小麦を得るのに糞便を肥料としていた。ヘロドトスの《歴史》(巻三)に,エチオピア王がペルシア王カンビュセスからの使者に向かって,ペルシア人は糞便を常食とするから寿命が短いはずなのに,最高80年も生きられるのは酒で元気をつけるからだ,といった話があるが,これはエチオピア人が農耕を知らず,下肥を誤解したためである。 糞はまた,古代中国では豚など家畜の飼料としても利用された。…

※「下肥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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