リニア・アクセレレーター(読み)りにああくせれれーたー(英語表記)linear accelerator

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

リニア・アクセレレーター
りにああくせれれーたー
linear accelerator

電気を帯びた粒子を交流の電圧のもとで直線的に走らせ、高いエネルギーまで加速する装置で、線形加速器またはリニアック(ライナックlineac)ともよばれる。高周波技術進歩に伴って急速に発展した装置で、医療用、工業用、研究用などとして利用される。構造的には、円柱形の空洞の中に、中空円筒形電極が一直線上に多数並べられている。空洞内は真空で、円筒形の電極は、一つおきに交流の電極とつながっている。電気を帯びた粒子は、第一の円筒の電極と第二の円筒の電極の間に加えられた電圧によって加速されて、第二電極の円筒の中へ走っていく。このとき、電源正負が逆転すれば、第二電極から第三電極への粒子はさらに加速されて走ることとなる。粒子が一つの電極から次の電極に進む時間が、交流の電源の周期の半分と一致すれば、粒子は次々と各電極間で加速されていく。リニア・アクセレレーターでは、電源の半周期と粒子が各電極を進む時間は同じであるようにセットされているため、粒子は各電極の円筒間を走っていくうちに、高エネルギーに加速されていくわけである。

[赤沼篤夫]

医療としての利用

医療用のリニア・アクセレレーターのほとんどは、電子を加速したものである。これには、光速度近くまで加速した電子を、そのまま空中に取り出して電子線として利用するものと、加速した電子を白金標的に当ててX線を発生させ、このX線を利用するものとがある。電子線照射の対象となるのは主として皮膚腫瘍(しゅよう)、乳癌(がん)であり、X線照射の対象となるのは脳腫瘍、乳癌、肺癌副腎(ふくじん)腫瘍、腎腫瘍膀胱(ぼうこう)癌、睾丸(こうがん)腫瘍、子宮頸(けい)癌、卵巣腫瘍、骨(こつ)腫瘍、悪性リンパ腫などである。なお、電子線治療においては、これまでは電子線発生装置であるベータトロンが用いられてきたが、現在ではリニア・アクセレレーターのほうが普及している。ベータトロンでは線量率(単位時間当り照射される放射線量)が低く照射に時間を要していたが、リニア・アクセレレーターでは十分な線量率が得られるほか、十分な電子線拡散を行えて線量の均等な照射野(放射線が照射される範囲)が得られるなど利点がある。また、細い電子線ビームのまま照射野をスキャンして、同一照射野の中で必要に応じた不均一照射野もつくれる。X線の照射も単一な照射野の治療だけでなく、多重絞りを装備しガントリー(線源装置を支える回転腕)を回転させ、腫瘍の立体的な形体に照射する「原体照射」とよばれる照射技術も自由に用いられるようになった。この技術では線量率も制御できるようになり、トモセラピー(強度変調放射治療機)に発達している。

[赤沼篤夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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