日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ライト(Richard Wright)
らいと
Richard Wright
(1908―1960)
アメリカの黒人小説家。ミシシッピ州ナッチェスの貧しい農家の生まれ。少年期は、夫に捨てられた病気の母を助けて生活を支えるために職を転々とし、満足な学校教育も受けられずに独学した。この少年時代の南部での異常な体験は、「幼少期の記録」と副題のある自伝小説『ブラック・ボーイ』(1945)に詳しい。15歳のころH・L・メンケンの作品に感激して、作家になる決意を固める。19歳で南部からシカゴへ脱出、革命的芸術団体ジョン・リード・クラブに参加。まもなく共産党に入党する(1932)。このころ書かれた処女作『アンクル・トムの子供たち』(1938、増補1940)は、南部の人種的偏見を描いた短編集で、『ストーリー』誌の賞を受けた。続いて1940年、人種差別に対する抗議小説の最高傑作『アメリカの息子』で、指導的黒人作家になる。また自然主義の伝統を継承するアメリカ作家として、名実ともに揺るがぬ地位を築いた。
翌1941年、劇作家ポール・グリーンの協力を得て『アメリカの息子』を劇化。1944年共産党を離脱。第二次世界大戦後、自伝『ブラック・ボーイ』で自己清算を図り、パリへ脱出、実存主義的傾向の実験小説『アウトサイダー』(1953)を書いて転身を試みた。しかし次作『長い夢』(1958)ではふたたびミシシッピを舞台にした陳腐な抗議小説に逆戻りしている。ほかに一連のルポルタージュ『黒い力』(1954)、『カラー・カーテン』(1956)、『異教徒の国スペイン』(1957)、講演集『白人よ、聞け!』(1957)と、死後出版された短編集『八人の男』(1961)、長編『今日という日は』(1963)、『ブラック・ボーイ』の続編『アメリカの飢え』(1977)などがある。彼の抗議小説は次代の黒人作家ボールドウィン、エリソンなどから厳しく批判された。
[関口 功]
『高橋正雄著『悲劇の遍歴者――リチャード・ライトの生涯』(1968・中央大学出版部)』▽『野崎孝訳『ブラック・ボーイ』上下(岩波文庫)』▽『北村崇郎訳『続ブラック・ボーイ』(1976・研究社出版)』