マレ(Léo Mallet)(読み)まれ(英語表記)Léo Malet

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マレ(Léo Mallet)
まれ
Léo Malet
(1909―1996)

フランスの詩人、推理作家。南仏モンペリエに生まれる。16歳でパリに出て、生活のためさまざまな職業に手を染め、庶民の風俗と生活の実態を目にした。そのときの体験が、後に彼の作品で活用されることになる。1930年代シュルレアリスムを発見し、アンドレ・ブルトンと知り合った。このころマレはかなりの詩を書いており、そこでは死、不安、エロチスムが繰り返し現れるテーマである。1943年、最初の推理小説『駅通り百二十番地』120, rue de la Gareを刊行し、私立探偵ネストール・ビュルマNestor Burmaを登場させた。ドイツの捕虜収容所で出会った男が死にぎわに残したことば手掛りに、主人公がリヨンとパリ郊外で殺人事件を捜査し、盗難真珠をめぐる謎(なぞ)を解決するという物語である。優れた推理小説であると同時に、ドイツ占領期のフランス社会を印象深く描いた作品になっている。ビュルマはその後もマレの作品にしばしば登場する。代表作は『新編パリの秘密』Les nouveaux mystères de Paris全15巻(1954~59)で、パリのさまざまな界隈(かいわい)を舞台にしたシリーズである。たとえば『サンジェルマン殺人狂騒曲』La nuit de Saint-Germain-des-Présでは、盗難宝石の回収を依頼されたビュルマがパリ6区サン・ジェルマン地区の夜闇を背景に、あざやかな活躍をみせる。マレの作品にはアメリカのハメットチャンドラーの影響が明らかで、都市の闇、暗い通りでの尾行、派手な殴り合いなどがしばしば語られる。フランスにアメリカ流のハードボイルド小説を根づかせた彼の功績は大きい。他方でマレの作品は錯綜(さくそう)した筋立て、パリの小路や庶民街の描写、幻想的で不気味な場面を好み、作家の反体制意識とブルジョア社会への敵意を示す。その点で19世紀の社会派大衆小説の流れを汲(く)んでいる。実際『新編パリの秘密』というタイトルは、19世紀を代表する大衆作家ウジェーヌ・シューの『パリの秘密』(1842~43)を踏襲したものである。

[小倉孝誠]

『大久保和郎訳『ルーヴルに陽は昇る』(1964・早川書房)』『中野貞雄訳『レオ・マレ自選集1 トルビアック橋の霧』(2000・文芸社)』『藤田宜永訳『サンジェルマン殺人狂騒曲』『シャンゼリゼは死体がいっぱい』、長島良三訳『ミラボー橋に消えた男』『殺意の運河サンマルタン』(中公文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

発見学習

発見という行為の習得を目指す学習。または,発見という行為を通じて学習内容を習得することを目指す学習。発見学習への着想は多くの教育理論に認められるが,一般には,ジェローム・S.ブルーナーが『教育の過程』...

発見学習の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android