ピロール

化学辞典 第2版 「ピロール」の解説

ピロール
ピロール
pyrrole

C4H5N(67.09).アゾールともいう.コールタール中に少量,骨油中にかなり多量に存在する.2-フランカルボン酸アンモニウムの加熱,フランとアンモニアをAl2O3上で加熱,あるいはスクシンイミドを亜鉛末と蒸留するなどの方法で生成する.クロロホルム様の特有な臭気をもつ無色液体沸点130~131 ℃.0.9691.1.5085.λmax 209,240 nm(ε 6730,300).有機溶媒に易溶,水に難溶.空気中で着色する.そのNH基の塩基性はきわめて弱い(pKb 13.6)が,反応性は高く,酸性では重合が起こって樹脂化しやすい.金属化合物はピロール誘導体の合成に用いられる.たとえば,ピロール環は芳香族性を有し,環の水素のハロゲン置換,ジアゾニウム塩のカップリング,酸無水物によるアシル化などが容易に進行する.ピロールという名称はギリシア語の“火のように赤い”という意味であり,ピロールおよびその誘導体は希塩酸溶液中でピロール赤を生成する.亜セレン酸による酸化反応やケイ酸,モリブデン酸アンモニウムおよび硫酸の混合溶液との反応では濃青色のピロール青を呈するので,これらの検出にも用いられる.[CAS 109-97-7]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピロール」の意味・わかりやすい解説

ピロール
ぴろーる
pyrrole

5員環内に窒素原子をもつ複素環式化合物の一つ。コールタール中に少量含まれているほか、骨油中にも存在する。

 アルミナを触媒としたフランとアンモニアとの反応、あるいはブチンジオールとアンモニアの酸化トリウム‐アルミナ触媒上での反応により合成される。特有なにおいをもつ無色の液体。水には溶けにくいが、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒とは任意の割合で混じり合う。塩基性はきわめて弱く、希酸とは塩をつくらない。ピロール環は芳香族性をもっているので、付加反応のほかに置換反応を行う。比較的安定であり、ピロール環を四つ含むテトラピロール環系はクロロフィル、ヘモグロビンのポルフィリン環の構成単位として重要な役割を果たしている。

[廣田 穰 2015年7月21日]

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百科事典マイペディア 「ピロール」の意味・わかりやすい解説

ピロール

窒素1原子をもつ5員環芳香族複素環化合物C4H5N。特異臭のある無色の液体。沸点130℃。水に難溶,エタノールに易溶。濃塩酸などを作用させると直ちに重合する。葉緑素やヘモグロビンの補欠分子の骨格となっているポルフィリンや,ある種のアルカロイドなどの天然有機化合物はピロール環を含む構造をしている。(図)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピロール」の意味・わかりやすい解説

ピロール
pyrrole

化学式 C4H5N 。コールタール中に少量含まれる,特有の臭いのある無色の液体。粘液酸アンモニウムの熱分解で得られる。沸点 131℃。分子構造上は第二アミンであるが,塩基性はきわめて弱い。ポルフィリンやビリルビンには1分子中に4個のピロール環構造が含まれている。

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精選版 日本国語大辞典 「ピロール」の意味・読み・例文・類語

ピロール

〘名〙 (pyrrole) 芳香を有する無色の液体。化学式 C4H5N 骨油・コールタールなどに含まれる。亜セレン酸・珪酸の検出試薬などに使用。

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デジタル大辞泉 「ピロール」の意味・読み・例文・類語

ピロール(pyrrole)

複素環式化合物一種。特異臭をもつ無色の油で、コールタール・骨油中などに含まれる。水に不溶で、有機溶媒とはよく混ざる。

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栄養・生化学辞典 「ピロール」の解説

ピロール

 C4H5N (mw67.09).

 ピロール環として生体物質に含まれる.ヘムなどのポルフィリンやビリルビンなど.

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世界大百科事典 第2版 「ピロール」の意味・わかりやすい解説

ピロール【pyrrole】

コールタールや骨油中に存在する窒素1原子をもつ5員環芳香族複素環化合物。特異な芳香をもつ無色の液体で,沸点130℃。放置するとしだいに褐色をおびる。有機溶媒にはよく溶けるが,水にはほとんど不溶。電子線回折による構造を図に示す。炭素‐炭素結合の長さからみると二重結合はかなり局在化しているが,共鳴エネルギーは約31kcal/molと報告されており,チオフェンフランと同程度の芳香族性をもつ。窒素‐水素結合をもつがその塩基性はきわめて弱く,希酸にはほとんど溶けない。

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