バクテロイデスを含む無芽胞嫌気性菌感染症

内科学 第10版 の解説

バクテロイデスを含む無芽胞嫌気性菌感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(20)バクテロイデスを含む無芽胞嫌気性菌感染症(nonsporulating anaerobic infection)
定義
 皮膚・粘膜,特に粘膜には無芽胞嫌気性菌群が多種多量に存在しているが,これらの無芽胞嫌気性菌の中には組織・体腔・血液中に侵入した場合,局所的な膿瘍主体となる化膿性感染症や壊死性感染症を起こすものがある.そして,二次的に菌血症を起こし,転移性の病巣または敗血症死を起こす.単独でも膿瘍形成を有する無芽胞嫌気性菌の菌種もあるが,多くはほかの嫌気性菌,微好気性菌,通性菌との複数菌感染症としてみられる.
病理
 皮膚や粘膜には600種以上の細菌が存在することが明らかとなっている.しかし,これまでの標準的な手法で感染病巣における存在が確認され,病原的意義が高いと考えられる嫌気性菌はその10%程度である.Bacteroides fragilis グループは最も重要である.その中でもB. fragilisはほかの細菌種には認められない莢膜多糖体を産生し,単独でも病原性を発揮する力をもち,また基質域の広いβ-ラクタマーゼを産生する.また,Fusobacterium necrophorumは白血球毒を産生し,膿瘍形成作用が強い.無芽胞嫌気性菌群の病原因子は,その他耐気性,組織破壊に関する酵素など少なくないが,その1つ1つは強い病原因子をもたなくとも,細菌叢で共存するほかの嫌気性菌,微好気性菌そして通性菌などとともに平均3~4種の細菌がグループ(pathogroup)を形成することにより,病原性を高め,1つの強い病原体のように働いていると考えられている(表4-5-5).
臨床症状
 無芽胞嫌気性菌感染症は外傷や手術,また炎症・腫瘍などによる粘膜の破綻に引き続いてみられる.全身いたるところに高頻度で発生していることが容易に考えられる.代表的なものは,脳膿瘍,誤嚥性肺炎・肺化膿症・肺膿瘍,歯性感染症・重症歯原性感染症(壊疽性筋膜炎など),腹腔・骨盤内感染症,軟部組織感染症などである.皮膚や粘膜表面部では,化膿性・壊死性病変の形をとり,深部では膿瘍形成の形をとることが多い.そして二次的に血流感染症を起こす.
 嫌気性菌はいくつかのバイオフィルム病で重要な役割を演じている.特に,細菌性膣症(bacterial vaginosis)では,健常時に膣粘膜で最優勢菌であるLactobacillusが顕著に減少し,Prevotellaなどの無芽胞嫌気性菌が異常に増加している.また,褥瘡や糖尿病性潰瘍などの慢性潰瘍部のバイオフィルムで,Bacteroides spp., Prevotella spp., Finegoldia magnaなどの菌種を含むかなりの嫌気性菌群が重要な役割を演じていると考えられる.
診断
 正常細菌叢による汚染を避けて病巣から検体を採取する.良質な検体は穿刺吸引法などによって得られる.酸素暴露を最小限にして検査室に輸送する.ほとんどは複数菌感染症の形をとるので,菌の検出には選択分離培地の使用など菌種の世代時間を考慮した高度な技術が必要になる.Gram染色標本で,複数の菌形,染色性の悪い菌体,多形性の菌体の存在を確認した場合には嫌気性菌の存在を疑う.病巣には平均3~4種の嫌気性菌と1~2種の嫌気性菌以外の細菌が共存するのが常である.
治療
 無芽胞嫌気性菌感染症の特徴である膿瘍に対して,切開排膿・ドレナージなど外科的処置を主体とした治療が抗菌化学療法とともに行われる.外科的処置の実施が困難な状況では抗菌化学療法のみで対応される.また,嫌気性菌が深く関与するバイオフィルム病,たとえば細菌性膣症に対しては,抗菌薬の膣錠投与や生菌を用いたバイオ治療が,また糖尿病性壊疽・褥瘡など慢性潰瘍部のバイオフィルム病には外科的処置を主体として,消毒薬や抗菌薬を用いた治療法が行われる. 嫌気性菌の多くの菌種は,現在でもペニシリンに高い感受性を示す.しかし,嫌気性菌感染症からの主要な分離菌であるB. fragilis グループは例外で,ペニシリン,セファロスポリンなど一般的な抗菌薬耐性傾向が強く,経験的治療の際に安定した抗菌力を示す薬剤は少ない.たとえば,カルバペネム, セファマイシン,β-ラクタマーゼ阻害薬とβ-ラクタム薬の併用などと限られてくる.そのうえ,これらの数少ないB. fragilis グループに有用とされる抗菌薬にもすでに耐性株が出現している.発売以来嫌気性菌感染症に対して汎用されてきたリンコマイシンやクリンダマイシンはB. fragilis グループを含むかなりの菌種に高度耐性株が出現,増加しており,感受性試験結果なしでは使用が困難となっている状況である.B. fragilis グループに強い抗菌力を示すニューキノロン薬も開発されたが,すでに耐性株が出現している.副作用に問題がある薬剤ではあるが,クロラムフェニコールとミノサイクリンは嫌気性菌感染症に対して有用性を発揮し得る薬剤である.アミノ配糖体とアズトレオナムは嫌気性菌全般に抗菌力を示さない.[渡邉邦友]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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