テン(Teresa Teng)(読み)てん(英語表記)Teresa Teng

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

テン(Teresa Teng)
てん
Teresa Teng
(1953―1995)

台湾の女性歌手。雲林県生まれ。日本以外での芸名は鄧麗君(デンリーチュン)。本名は鄧麗筠(デンリーユン)。アジア全体で広く活躍し、日本では日本語で、中国系の多いアジア各国では北京語、広東語などで歌った。

 台湾で11歳から人前で歌い始め、天才少女歌手としての名声を得る。1974年(昭和49)に進出した日本でも数々のヒット曲を放ち、演歌、歌謡曲のスターとして親しまれた。その後も、主に香港(ホンコン)で活躍。90年(平成2)前後の日本でのワールド・ミュージック・ブームにおいてアジアを代表する女性歌手であり、香港や台湾から広東語などで歌った多くのレコードも輸入され、新しいファン層を獲得した。また、中国系移民の多いアメリカでも活動、80年リンカーン・センターでコンサートも行っている。90年からはパリを生活の拠点の一つとした。

 世界を駆け巡った42年の彼女の生涯は数々の栄光に包まれていた一方で、旅券偽造による日本国外退去という事件(1976)のほか、死亡説流布、数々の恋愛など波瀾の人生でもあった。特に90年前後には中国民主化闘争を香港で支援する運動を先頭に立って展開、死去の際には謀殺説なども流れた。また、故郷台湾を愛し、台湾軍兵士慰問にも熱心に訪れた。こうした一面は、情愛表現の細やかな演歌歌手という日本におけるイメージを一変させるものだった。そして一連の活動は彼女の複雑な出自や育ちと無縁ではなかった。両親が大陸出身の外省人(第二次世界大戦後に台湾に渡来した中国人)であり、特に父は日本語教育を受けた国民党軍将校だった。父親のような存在は、大陸側の中国と台湾の対立、さらに外省人と本省人(台湾生まれの中国人)という対立のなかで、より微妙な立場に置かれたのだった。このことが彼女の生涯において、日本での活動を含めた多岐の活動として表れることになった。

 日本でのヒット曲に「空港」(1974。レコード大賞新人賞)、「つぐない」(1984)、「愛人」(1985)、「時の流れに身をまかせ」(1986)などがある。また、日本、香港、台湾での主な受賞歴としては、1972年香港十大スターに選出、83年『淡淡幽情(タンタンユウチン)』で香港アルバム・オブ・ジ・イヤー受賞、84~86年日本有線大賞、全日本有線放送大賞の各賞で3年連続グランプリ受賞、86年日本レコード大賞金賞受賞、90年ベスト・アルバム『'90ベストコレクション――涙の条件』で日本ゴールドディスク大賞アルバム賞(歌謡曲演歌部門)受賞などがある。95年タイのチエンマイ喘息発作で急死。死後の96年香港音楽業界の黄金の針賞受賞。

[東 琢磨]

『平野久美子著『テレサ・テンが見た夢――華人歌星伝説』(1996・晶文社)』

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