テクネチウム
テクネチウム
technetium
Tc.原子番号43の元素.人工放射性元素.電子配置[Kr]4d55s2の周期表7族第5周期遷移元素.テクネチウムの同位体は現在,質量数85~118まで知られている.D.I. Mendeleev(メンデレーエフ)がエカマンガンとして予言していた元素.1925年にW. Noddack(ノダック)とI. Tackeがウラン鉱物中にX線蛍光スペクトルから43番元素を発見したと報告し,ノダックの故郷の地名Masuriaにちなんでマスリウムと命名したが受け入れられず,1937年にC. PerrierとE. Segréがカリフォルニア大学バークレー校のサイクロトロンで,加速した重陽子でモリブデンを衝撃して合成したものが,確認された最初の43番元素.その後も地球上のTcの探索が続けられ,1962年に至り,P.K. Kuroda(黒田和夫)とB.T. Kennaがアフリカ・ガボン産のせんウラン鉱中に,ウランの自発核分裂生成物として微量の存在を確認した.S,M,N型星にもスペクトル線から存在が推定される.最近,ノダックらのX線スペクトルを詳細に再検討したところ,かれらもTcを見つけていたことが判明した.はじめて人工的につくられた元素として,Segréたちが“人造の”を意味するギリシア語τεχνητο
(technètos)からtechnetiumと命名した.99Tc は,半減期2.11×105 y の比較的安定な β- 崩壊核種で,原子炉使用済みウラン燃料中に核分裂生成物として多量に存在する.現在,医学の分野で広く利用されている 99mTc は,半減期6.0058 h で0.143 MeV のγ線を放出する核種で,99Mo の娘核種として得られる.半減期61 d の 95mTc もトレーサーとして使用される.銀灰色の六方最密金属.融点2172 ℃,沸点4877 ℃.密度11.5 g cm-3(20 ℃ 計算値).7.8 K 以下で超伝導を示す.第一イオン化エネルギー7.28 eV.金属は過テクネチウム酸アンモニウムの水素による還元で得られる.硝酸,王水,濃硫酸に可溶,塩酸に不溶.酸化数2~7.7がもっとも安定で過テクネチウム酸(テトラオキソテクネチウム(Ⅶ)酸イオン)TcO4-として種々の塩をつくる.フッ化物TcF5,TcF6,塩化物TcCl4,TcCl6,臭化物TcBr4などが知られる.酸化物中Tc2O7は融点119.5 ℃,沸点310.6 ℃ でかなり揮発性である.[CAS 7440-26-8][CAS 14133-76-7:99Tc][CAS 12165-21-8:Tc2O7]
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テクネチウム
てくねちうむ
technetium
周期表第7族に属し、マンガン族元素の一つ。原子番号43の元素の探求は古くから行われ、1908年(明治41)日本の小川正孝(まさたか)(1865―1930)のニッポニウム(これはそのころ、未発見であった同族元素のレニウムであることが後になって推定されている)、1925年ドイツのW・K・F・ノダックのマスリウムの発見が報告された。しかし、これらは誤りであることがわかった。1936年アメリカのE・O・ローレンスは、サイクロトロンの中でモリブデンに重水素のビームを長期間照射したサンプルをイタリアのセグレに送ったが(セグレはもともとバークリーでその研究をしていた)、セグレはペリエとともにこの中から43番元素であると考えられるものを分離した。さらに1940年セグレらはウランの核分裂生成物中からかなりの量の43番元素を得ることに成功した。これは人工的に初めてつくられた元素なので、人工を意味するギリシア語technikosにちなんで命名された。天然にもウランの自然核分裂により痕跡(こんせき)量が存在する。ウランの核分裂生成物からプルトニウムなどを除いて容易に回収されるので、現在では同族のレニウムよりむしろ入手しやすい。質量数90から110までの同位体はすべて放射性で、そのうち多量に得られるのは99(β-放射、半減期21万2000年)である。また98Tcはβ-放射、半減期4.2×106年である。銀灰色の金属。湿った空気中で徐々に酸化皮膜に覆われるが、400℃以上に熱すると酸化テクネチウム(Ⅶ)を生じる。フッ化水素酸、塩酸に不溶だが、硝酸、濃硫酸に溶ける。酸化数Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅶの化合物が知られる。医用トレーサーとして用いられる。99Tcはβ線の標準線源として用いられる。
[守永健一・中原勝儼]
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テクネチウム
technetium
元素記号 Tc ,原子番号 43。周期表7族の人工放射性元素で,質量数 92から 107にいたる 16種の放射性同位体が知られている。 1925年ドイツのノダック夫妻は 75番元素レニウムと 43番元素 (マスリウムと命名) を発見したが,このうちマスリウムはほかの研究者により再確認を得るにいたらなかった。しかし 37年に,E.セグレと C.ペリエがカリフォルニア州バークリーのサイクロトロンでモリブデンを重陽子で照射し,放射性の 43番元素をつくることに成功し,テクネチウムと命名した。現在も安定核種は存在しないと考えられている。語源はギリシア語で「人工的なもの」という意味である。単体は銀灰色の金属,六方最密構造。融点 2140℃,比重 11.5。化学的性質はレニウムに酷似している。
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「テクネチウム」の意味・わかりやすい解説
テクネチウム
元素記号はTc。原子番号43。比重11.5,融点2200℃。人工放射性元素の一つ。銀白色の金属で,化学的性質はレニウムに似る。1937年C.ペリエとE.セグレがモリブデンに重水素原子核をあてて初めて人工的につくった新元素で,ギリシア語のテクネトス(人工的)にちなんで命名。安定同位体はなく,天然には存在しない。最も長寿命(半減期約4.2×106年)の同位体は(98/)Tc。現在では原子炉中からかなり多量に抽出される。
→関連項目核医学的検査|人工放射性元素|セグレ
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テクネチウム
〘名〙 (technetium) マンガン族元素の一つ。元素記号 Tc 原子番号四三。質量数九〇~一一〇の同位体中九九が最も多量に得られる。銀灰色の金属。六方晶系結晶。
中性子照射したウランから分離精製してつくる。人工的につくられた初めての元素で天然には発見されていない。一九三七年、アメリカのC=ペリアーとE=セグレがモリブデンに重陽子を照射して初めてつくった。
軟鉄の腐食防止剤に用いられる。
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「テクネチウム」の意味・読み・例文・類語
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テクネチウム【technetium】
周期表元素記号=Tc 原子番号=43融点=2200℃ 沸点=5030℃比重=11.5電子配置=[Kr]4d55s2おもな酸化数=IV,VI,VIIマンガンおよびレニウムとともに周期表第VIIA族に属する金属元素の一つ。1937年,ペリエC.PerrierとセグレE.G.Segréがモリブデンに重陽子を照射して初めてつくった元素で,人工的につくられた最初の元素である。〈人工の〉を意味するギリシア語technētosに因んで命名された。
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世界大百科事典内のテクネチウムの言及
【人工元素】より
…天然に存在せず,人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素をいう。ふつう,周期表上原子番号43のテクネチウムTc,61のプロメチウムPm,85のアスタチンAt,87のフランシウムFr,および93のネプツニウムNp以降の諸元素(超ウラン元素)を人工元素とみることが多い。しかし,この定義は厳密なものとはいえない。…
※「テクネチウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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