タフポリマー(読み)たふぽりまー

知恵蔵 「タフポリマー」の解説

タフポリマー

ポリマーとは、単位となる小さな分子鎖状網状に連なった高分子化合物をいい、タフポリマーは、従来のポリマーに比べ、薄さを数分の一にしたり、強さを数倍に高めたりした新たな高分子材料をいう。内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導し産学連携により進める革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として、2018年度末までの5年間をかけ、東京大学の伊藤耕三教授をプログラム・マネージャーとするプロジェクトが「しなやかなタフポリマー」の実現と応用に取り組んできた。ポリマーは用途の広い素材であるが、薄くすると壊れやすく、厚く硬くするともろくなる性質が課題であった。従来の限界を超えて薄膜化、強靱(きょうじん)化を達成し、柔軟性や自己修復性などの特徴を持つタフポリマーをつくり、様々な製品への応用が実現すれば、省資源、省スペース、省エネルギー、高耐久性、高安全性など広範なメリットが得られる。日本は高分子化合物の研究分野で世界的に高い水準にあり、タフポリマーの研究開発の効率化と産学共同を推進することで、世界における産業競争力の維持・強化、新規産業の創出などが期待できるとして、プロジェクト全体で総額48.5億円の研究費が国によって投じられた。
このプロジェクトでは、用途に応じたタフポリマーを開発する基盤技術として、放射光施設SPring-8を用いた分子の破壊機構解明と、スーパーコンピューター「京(けい)」を用いたシミュレーションなどにより、分子結合制御の新手法開発と高次構造設計を効率的に行うことに成功した。産業応用面では、18年9月に、このタフポリマー分子設計・材料設計技術を炭素繊維強化樹脂(CFRP)に応用した東レ株式会社が、本来のCFRPが持つ高い強度と剛性と共に従来の約3倍の耐疲労特性を持つ新素材を実現したと発表した。同時期、東レ/住友化学/ブリヂストンの共同開発により車両重量を従来車の約6割程度の約850キログラムにまで低減したコンセプト電気自動車(EV)「アイトップ」(ItoP)が公開された。アイトップは、材料全体の47%がタフポリマー技術を応用した樹脂材料で構成されており、車体部分には東レの炭素繊維強化樹脂、ウインドウ部分には住友化学の透明樹脂材料、タイヤにはブリヂストンが開発したゴム材料をそれぞれ使用している。タフポリマーを使ったゴム材料は、従来のゴムに比べ4.8倍の強度を持つためタイヤをつくる際により薄く軽くすることができ、低燃費で強度の高いタイヤが実現した。この他、燃料電池電解質膜の超薄膜化に旭硝子が、リチウム電池用セパレータの超薄膜化に三菱樹脂が取り組んでいる。今後、材料コストの低減を含めた実用化、競技用自転車やゴルフシャフト、釣竿などのスポーツ用品やベビーカー、車椅子、義足等の福祉機器など様々な分野への応用が期待されている。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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