スタハーノフ運動(読み)スタハーノフうんどう(英語表記)Stakhanovskoe dvizhenie

改訂新版 世界大百科事典 「スタハーノフ運動」の意味・わかりやすい解説

スタハーノフ運動 (スタハーノフうんどう)
Stakhanovskoe dvizhenie

ソ連邦で1935年以来行われていた労働生産性向上運動で,社会主義的競争の一種。技術習得を基礎として生産高ノルマ(基準量)を上げようとする点に特徴がある。35年8月31日,ドンバスの採炭労働者スタハーノフAleksei Grigor'evich Stakhanov(1906-77)は圧搾空気ハンマーを用いて,1交替時間中に102tの石炭(ノルマの14倍)を採掘した。運動はこれを範として,35年末から開始されたが,当時のソ連は第2次五ヵ年計画期にあたり,社会主義的工業の発展軌道にのり,農業の集団化も,その強引な手段がもたらした多くの困難をくぐって,ようやく達成の見込みがつき,国内経済の新しい建設期に向かおうとしていた時期である。このような状況のなかで,従来労働者に適用されていたノルマは過度に低かったとされるようになり,その上方修正すなわち引上げが強く呼びかけられた。しかしこの運動は,労働強化に抵抗する一般労働者の反発を呼んだだけでなく,生産性向上の条件づくりの責任を負わされる現場経営者からの反発をも招いた。こうして現場では各種の混乱が生じたことから考えると,〈労働者の社会主義的積極性の発揚〉という政府当局の評価は十分に実態に即したものとはいえない。とはいえ,一部の熱狂的労働者が生産性向上に大きな熱意を示したことは事実であり,彼らはソ連の国家建設の貴重な支柱となった。彼らのうちには,工業部門の指導的任務についた者もいる。なお,〈社会主義労働英雄〉という名誉称号が1938年に創設されている。大戦後も社会主義的競争は一貫して称揚されており,スタハーノフの名も労働者のヒロイズムの象徴とされてきた。しかしペレストロイカのころからこうした運動の人為性・形式性に関する懐疑の念も表明されるようになった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スタハーノフ運動」の意味・わかりやすい解説

スタハーノフ運動
スタハーノフうんどう

ソ連で第2次5ヵ年計画中の 1935年に始った労働生産性向上運動。国民生活全体に影響を及ぼした。 35年8月,ドンバス炭坑の採炭夫アレクセイ・スタハーノフは,社会主義的情熱と新技術の導入により,一交替時間中に 7tのノルマの 14倍に上る石炭を採掘した。このことがきっかけとなりすべての産業,交通,建築,農業部門でこの運動が展開され,模範を示した労働者は労働英雄としてたたえられた。第2次5ヵ年計画中に労働生産性は 82%増加したといわれる。しかし,この運動は労働強化となる一般労働者と生産性向上の任務を負わされる経営者からの反発を招き,現場ではさまざまな混乱も生じた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「スタハーノフ運動」の意味・わかりやすい解説

スタハーノフ運動【スタハーノフうんどう】

ソ連で第2次五ヵ年計画の際に展開された全国的な生産向上運動。1935年ドネツ炭鉱の鉱夫スタハーノフStakhanovが新技術を考案してすぐれた採炭記録をあげたのを模範として始まった。この運動で好成績をあげた労働者はスタハーノフ労働者と呼ばれ優遇された。→呉満有運動

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「スタハーノフ運動」の解説

スタハーノフ運動(スタハーノフうんどう)
Stakhanov

1930年代後半にソ連で行われた作業能率増進運動。ドンバスの採炭夫スタハーノフが,35年採炭技術を改革して,ノルマを飛躍的に増進させたことに由来し,これを模範として各職場で熱狂的に推進された。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

今日のキーワード

排外主義

外国人や外国の思想・文物・生活様式などを嫌ってしりぞけようとする考え方や立場。[類語]排他的・閉鎖的・人種主義・レイシズム・自己中・排斥・不寛容・村八分・擯斥ひんせき・疎外・爪弾き・指弾・排撃・仲間外...

排外主義の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android