スケールフリー・ネットワーク(読み)すけーるふりーねっとわーく(英語表記)scale-free network

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

スケールフリー・ネットワーク
すけーるふりーねっとわーく
scale-free network

ネットワーク一種。次数分布に特徴的な尺度スケール)がない(フリー)ことからそうよばれる。次数分布がべき則(べき乗則)に従うネットワークをスケールフリー・ネットワークという。まず、頂点の次数とは、ネットワークのなかでその頂点が他の何頂点とつながっているかの数である。空港を頂点、2空港間の定期便を枝とする航空網ネットワークでは、各空港の次数は、その空港から定期便が就航している先の空港の数である。二者間の知人関係を枝とする人間関係ネットワークでは、各人の次数はその人のもつ知人数である。次数分布がべき則であるとは、次数kをもつ頂点の割合kに比例することである。べき指数γは正の数であり、通常のモデルやデータでは2から3程度のことが多い。kkが大きくなると減っていくので、次数の大きい頂点は、次数の小さい頂点よりも少ない。しかしながら、その減り方が指数分布正規分布の減り方よりは遅いために、次数の巨大な頂点も、少ないながらもそれなりの割合でネットワーク内にみつかる。大多数の頂点は非常に小さい次数をもち、一部の頂点のみが非常に大きい次数をもつことになる。この分布の性質は、個人の収入の分布や都市サイズの分布についてパレート法則ジブラの法則、マチュー効果、80対20の法則などとして知られるものと同じである。次数の大きい頂点をハブとよぶ。たとえば、航空網は典型的なスケールフリー・ネットワークであり、多数の他の空港と結ばれているハブ空港が、ネットワークの意味でもハブとなっている。

 インターネット、航空網など現実に存在するネットワークの多くがスケールフリー・ネットワークであることは、1999年ごろから盛んに報告されてきた。スケールフリー・ネットワークを模擬的につくる代表的な方法として、バラバシAlbert-László BarabásiとアルバートRéka Albertが1999年に提案したモデルが有名であり、両名の頭文字をとってBAモデルとよばれる(しかし、等価なモデルは1965年にプライスDerek John de Solla Priceによって提案されていて、これをスケールフリーの端緒と考える人もいる)。BAモデルでは、次々とネットワークに頂点を追加していくこと(成長)と、追加される頂点が既存のハブにつきやすいこと(優先的選択)の組み合わせによって、スケールフリー・ネットワークを実現している。頂点数が成長しないスケールフリー・ネットワークも実世界には多く存在するので、それに対応するモデルなども多数提案されている。

 応用例として、スケールフリー・ネットワークでは病気や情報が伝播(でんぱ)しやすいことや、ランダムに頂点が壊れることに対しては耐性があること、などが明らかにされている。これらは、感染症予防対策やインターネットの設計に寄与している。

[増田直紀]

『アルバート・ラズロ・バラバシ著、青木薫訳『新ネットワーク思考――世界のしくみを読み解く』(2002・日本放送出版協会)』『増田直紀・今野紀雄著『複雑ネットワークの科学』(2005・産業図書)』『増田直紀・今野紀雄著『「複雑ネットワーク」とは何か――複雑な関係を読み解く新しいアプローチ』(講談社・ブルーバックス)』『増田直紀著『私たちはどうつながっているのか――ネットワークの科学を応用する』(中公新書)』『蔵本由紀著『非線形科学』(集英社新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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