カリキュラムの専門性(読み)カリキュラムのせんもんせい(英語表記)specialty of a curriculum

大学事典 「カリキュラムの専門性」の解説

カリキュラムの専門性
カリキュラムのせんもんせい
specialty of a curriculum

19世紀にベルリン大学をモデルとして近代的な大学に改組されるまで,ヨーロッパの大学の学生たちは三学四科(いわゆる自由七科,文法・修辞学・論理学・算術・幾何学・音楽・天文学)を学び,のちに職業教育として神学・医学法学を学んだ。この伝統は,職業が農学工学に拡大してもアメリカ合衆国では踏襲され,大学教育は教養教育と専門教育を含んでいる。日本の大学も同様であり,学士課程教育の中でカリキュラムは教養課程と専門課程に分離され,それぞれの課程で専門性が求められる。日本では,1991年7月の大学設置基準の大綱化により,各大学は比較的自由にカリキュラムを設定できるようになった。学部4年間の授業科目の制度区分(一般教育,外国語,保健体育,専門教育)が廃止されたからである。そこで,これまで専門教育で教えられていた内容の一部を教養課程に含ませる,「くさび形」教育が行われるようになった。

 大学設置基準(日本)19条では「大学は,当該大学,学部及び学科又は課程等の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し,体系的に教育課程を編成するものとする」「教育課程の編成に当たつては,大学は,学部等の専攻に係る専門の学芸を教授するとともに,幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性を涵養するよう適切に配慮しなければならない」とだけ規定されており,カリキュラムの設定に強い規制はない。各大学において,学部ごとに専門教育を意識したディプロマ・ポリシー(DP)が策定され,それを達成するための実行教育課程表が作成され運用されている。

[教養課程]

いずれの科目が必要かは学部学科で異なるが,理系では基礎科目として数学(微積分とベクトル)理科(物理,化学,生物,地球惑星科学)が設けられる。理科実験,情報学,統計学が加えられることもある。また,英語やその他の外国語も必須である。文系では数学,外国語,情報学,統計学のほかに文系基礎科目が専門の基礎として配置される。一方で,学部学科によらず,すべての卒業生に共通して求められる能力もある。文系学生の理系の素養,現代世界の理解,コミュニケーション力などである。

[専門課程]

カリキュラムはディプロマ・ポリシーを達成するために構築され,カリキュラム・ポリシー(CP)でその概要が述べられる必要がある。ここにカリキュラムの専門性が記述されることになる。また,カリキュラムはディプロマ・ポリシーの下で体系的であり,一貫性を持つべきである。しかし,その内容がどこかに規定されているわけではない。日本の大学では,医歯薬系などの職業資格の取得をめざす学部以外は,カリキュラムの拘束性は低い。近年,職業資格としての工学士養成をめざしJABEE(日本技術者教育認定機構)に参加している工学部の学科は以前よりも拘束性が高い。これ以外の大学は独自のカリキュラムにより専門性を持たせなければならない。基本的には,ディプロマ・ポリシーに記述されるような卒業生を育てるために必要な教育を設計することになる。社会が要求する卒業生の資質は,年々変化するためディプロマ・ポリシー,ひいてはカリキュラムを再考する必要がある。最近ではキャリア教育インターンシップの導入が推奨されている。

[大学院課程]

大学院設置基準(日本)3条では「修士課程は,広い視野に立つて精深な学識を授け,専攻分野における研究能力又はこれに加えて高度の専門性が求められる職業を担うための卓越した能力を培うことを目的とする」,4条では「博士課程は,専攻分野について,研究者として自立して研究活動を行い,又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」とされている。すなわち,修士課程ではさらなる研究能力が,博士課程では自立した研究能力が求められている。

 現代では,さらに専門家としてのコミュニケーション力や教育力が求められるようになってきた。博士号取得者が,毎年1万6000人近く生み出されている日本では,すべてが大学や企業などの研究職に就けるわけではない。これは,アメリカ合衆国(5万2000人)や中国(5万人)などの諸外国でも同様である。博士課程教育では,今や狭い範囲の研究者だけではなく,社会のあらゆる側面に適応できるユニバーサルな能力を持った人物の養成が求められている。カリキュラムにはこれを保証するような内容が求められる。
著者: 細川敏幸

参考文献: エリック・アシュビー著,島田雄次郎訳『科学革命と大学』玉川大学出版部,1995.

参考文献: 京都大学高等教育研究開発推進センター編『大学教育学』培風館,2003.

参考文献: 文部科学省『文部科学統計要覧』平成24年版.

参考文献: David Cyranoskiほか「PhD大量生産時代」『Natureダイジェスト』2011年4月21日号.

参考文献: 安藤厚,細川敏幸,山岸みどり,小笠原正明編著『プロフェッショナル・ディベロップメント―大学教員・TA研修の国際比較』北海道大学出版会,2012.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報