エベール(英語表記)Jacques René Hébert

改訂新版 世界大百科事典 「エベール」の意味・わかりやすい解説

エベール
Jacques René Hébert
生没年:1757-94

フランスの政治家。北フランスのアランソンブルジョア家庭の出身。父は宝石商人であった。1780年頃パリに出て,バリエテ座の切符売りなどをしたが,1790年から新聞《ペールデュシェーヌPère Duchesne(デュシェーヌおじさん)》を発行。この新聞は,野卑でぞんざいな言葉で富裕者を非難し,大衆の声をよく代弁して人気を博した。彼は,92年8月10日の革命後にはパリ・コミューンの構成員,そして12月にはコミューンの検事補に選出された。その頃から次第に彼を中心にして,バンサンFrançois-Nicolas Vincent,ロンサンCharles-Philippe Ronsin,モモロAntoine-François Momoro,ショーメットPierre-Gaspard Chaumetteなどからなる〈エベール派〉が形成された。これはコルドリエ・クラブを拠点として,コミューンと県,少数の地区に影響力をもつ一つの政治勢力となった。エベール派は,アンラジェが倒れたのち,サン・キュロット指導者たることを自認し,93年秋には一般最高価格法などを国民公会に強制したサン・キュロット運動に同調し,また非キリスト教化運動をも推進した(〈エベール派の圧力〉と言われる)。しかしジャコバン独裁の末期になると,大土地を分割して農民に分与することや反革命容疑者の財産没収などを要求して,革命政府に対する蜂起を提唱したために検挙され,94年3月24日処刑された。
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エベール
Anne Hébert
生没年:1916-2000

フランス系カナダの詩人,小説家。はじめカナダ国立映画協会の台本作家。詩集《均衡のとれた夢》(1942)や《王たちの墓》(1953)の象徴派風詩人として知られるが,小説家あるいは短編作家としても評価が高い。19世紀ケベックに起こったある殺人事件に材を取った小説《カムラスカ》(1970)は広く話題を呼び,映画化(1973,C. ジュトラ監督)された。作品は多く英訳され,イギリス系カナダ人にも読者が多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エベール」の意味・わかりやすい解説

エベール
Hébert, Jacques-René

[生]1757.11.15. アランソン
[没]1794.3.24. パリ
フランスの革命家,ジャーナリスト。富裕なブルジョアの家に生れたが零落して,1780年パリに出て法学を学んだ。フランス革命を熱狂的に迎え,90年新聞『デュシェーヌおやじ』 Le Père Duchesneを発刊し,聖職者,貴族さらに国王を攻撃して広くパリ底辺民衆に人気を得た。 91年コルドリエ・クラブに加入し,92年8月 10日の革命では蜂起コミューンを指導。一方,山岳派とも接触しジロンド派に対抗した。そのため一時ジロンド派の十二人委員会によって逮捕 (1793.5.24.) された。 93年6月のジロンド派追放後は,サン=キュロット組織と結びつき次第に山岳派中枢と離反し,同年9月革命軍創設,「最高価格法」制定に尽力し,非キリスト教化運動を推進した。 94年3月コルドリエ・クラブは蜂起宣言を行なったため,M.ロベスピエールはエベール派を反革命的過激派として逮捕,エベールは同月 24日処刑された。

エベール
Hébert, Anne

[生]1916.8.1. サンカトリーヌドファッサムボルト
[没]2000.1.22. モントリオール
フランス系カナダの小説家,詩人,劇作家。文芸評論家の父の影響を受けて筆をとり始めた。作家生活の大半をフランスで過ごし,極端な感情のゆれと,猩紅熱肋膜炎を患ったケベック州での少女時代の孤独を鮮やかに描き出した力強い詩と小説を発表した。1942年に第一詩集『平衡の夢』Les Songes en équilibreを出版後,『王たちの墓』Le Tombeau des rois(1953),『言葉の謎』Mystère de la parole(1960)で詩人としての成熟ぶりを示した。8作の小説のうち 6作はケベック州を舞台に人間の心理を鋭く描き出し,愛することの困難と人間に内在する不可避な激情を探求している。最初の短編集『急流』Le Torrent(1950)は,少年と厳しい母親との関係に焦点をあてた衝撃的な作品で,いまや古典となった。緻密なサスペンスの傑作『カムラスカ』Kamouraska(1970)でフランス図書賞,『風の影』Les Fous de Bassan(1982)でフェミナ賞を受賞。(→カナダ文学

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百科事典マイペディア 「エベール」の意味・わかりやすい解説

エベール

フランス革命期の政治家。1790年からパリで革命的大衆紙《ペール・デュシェーヌ(デュシェーヌおじさん)》を発行。パリ民衆の間に影響力大きく,急進的小市民・無産者の支持を得てエベール派を形成。山岳派独裁の推進力となったが,のちロベスピエールに処刑された。
→関連項目サン・ジュスト

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エベール」の解説

エベール
Jacques René Hébert

1757~94

フランス革命期の民衆指導者。アランソンに生まれ,1790年からパリで新聞『ペール・デュシェーヌ』を発行。パリ民衆間に影響力を持ったが,ロベスピエール派によって処刑された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「エベール」の解説

エベール
Jacques René Hébert

1757〜94
フランス革命期の政治家
新聞「ペール−デュシェーヌ」を刊行し,サンキュロットを指導してエベール派を結成。ジャコバン左派に属して恐怖政治を推進し,最高価格令の制定,理性の崇拝,キリスト教の廃止を主張した。ロベスピエールと対立し,処刑された。

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