イプシロンロケット(読み)いぷしろんろけっと

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イプシロンロケット」の意味・わかりやすい解説

イプシロンロケット
いぷしろんろけっと

日本の固体ロケット技術の維持・発展、および安全保障、地球観測、宇宙科学・探査等の中型衛星の効率的な打上げを目的に、宇宙航空研究開発機構JAXA)が開発した中型打上げロケット。基本的な構成は3段式で、全段に固体推進剤を使用するが、高い投入軌道精度が必要な場合には最上段に液体推進剤の段(PBS:Post Boost Stage)を搭載可能である。

 2011年度(平成23)に開発着手。1号機(試験機)では、第1段にH-ⅡA・H-ⅡBの固体ロケットブースター(SRB-A)を、第2、3段にM-Ⅴロケットの第3段およびキックモーターの改良型を採用した。

 全長24.4メートル、直径2.5メートル、発射時質量91トン。打上げ能力低軌道(250キロメートル×500キロメートル)に1.2トン。

 射場・射点は、内之浦(うちのうら)宇宙空間観測所M(ミュー)センターで、M-Ⅴロケットの発射設備を改修・改良して使用している。

 射場における組立て・整備を効率化することで射場作業期間を大幅に短縮。またロケットに自律点検装置を搭載して点検を自動化したこと等により、地上機材が簡素化され、少数のパソコンと少数の人員で打上げ管制を行うことができる。

 1号機は2013年9月、348キログラムの「惑星分光観測衛星(ひさき)」を、近地点950キロメートル、遠地点1150キロメートル、軌道傾斜角31度の軌道に投入した。

 2号機(強化型)では、第2段を新規に開発して打上げ能力の向上を図り、あわせて衛星搭載スペースを拡大。全長および発射時質量が若干増え、それぞれ26メートル、94.5トン。低軌道打上げ能力が1.3トンに向上した。2号機は、2016年12月、約365キログラムの「ジオスペース探査衛星(あらせ)」を、近地点高度約219キロメートル、遠地点高度約3万3200キロメートル、軌道傾斜角約31.4度の軌道に投入した。

 なお、H-ⅡA・H-ⅡBがH3に交代した後は、第1段をH3の固体ロケットブースターの改修型に置き換える計画である。

[渡辺篤太郎 2017年4月18日]


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知恵蔵mini 「イプシロンロケット」の解説

イプシロンロケット

宇宙航空研究開発機構(JAXA)がIHIエアロスペースなどと共に開発した日本の小型固体燃料ロケット。500キログラム程度の小型の人工衛星従来より低コストで打ち上げることを想定しており、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げが行われている。2013年9月に1号機が、16年12月20日に2号機が、それぞれ打ち上げられた。2号機は2段目のエンジンを強化する改良が加えられ、衛星の打ち上げ能力が30%増の590キログラムとなり、打ち上げ費用はおよそ50億円と以前の小型ロケットの3分の2に抑えられている。これには今後の需要増加が見込まれる新興国などの小型衛星を打ち上げるビジネスの受注につなげる狙いがある。

(2016-12-20)

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