アブラハム(旧約聖書)(読み)あぶらはむ(英語表記)Abraham

翻訳|Abraham

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブラハム(旧約聖書)」の意味・わかりやすい解説

アブラハム(旧約聖書)
あぶらはむ
Abraham

旧約聖書』の「創世記」に記されているイスラエル人の始祖ヘブライ語で'abrāhām)。彼は神の命令と約束に従って、バビロニアの地から北シリアを通ってパレスチナの地に移住した小家畜を飼育する氏族の長である。定住後も先住民や近隣諸国との摩擦を起こすが、最終的にはつねに約束の神を信じて平和を得る。高齢になって嗣子(しし)イサクを神から与えられ、平安のうちにヘブロンの地に葬られる。このような物語はなんらかの歴史的事実に基づいていると考えられる。イスラエル人の祖先の紀元前二千年紀中葉の生活がここに反映しているのであろう。

 さらにこの物語は、パレスチナの土地授与と子孫増加の約束を伴う神によるイスラエルの選びの物語として、後のユダヤ人の心の支えともなり、また今日ではユダヤ人によるパレスチナ占有の正当化の理由づけにもされている。他方、イスラム教の伝統(コーラン)においても、アブラハム(イブラヒム)は、彼らの父祖として尊ばれている。キリスト教では神の約束にのみ信頼を置いて、旅人として歩むアブラハムの姿のなかに、信仰者の生き方の模範をみいだそうとする。

[月本昭男]

『関根正雄訳『創世記』(岩波文庫)』『R・ドゥ・ボー著、西村俊昭訳『イスラエル古代史――起源からカナン定着まで』(1977・日本基督教団出版局)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

排外主義

外国人や外国の思想・文物・生活様式などを嫌ってしりぞけようとする考え方や立場。[類語]排他的・閉鎖的・人種主義・レイシズム・自己中・排斥・不寛容・村八分・擯斥ひんせき・疎外・爪弾き・指弾・排撃・仲間外...

排外主義の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android