氏族
しぞく
clan
単系出自集団unilineal descent groupの一つ。単系出自集団とは、特定の祖先から、男性または女性のみを通じて親子関係がたどれる子孫たちのつくる集団である。父系出自集団は特定の男性祖先から男のみを通じて出自がたどれる子孫、母系出自集団は逆に、特定の女性祖先から女性のみを通じて出自がたどれる子孫からなる。このような集団のうち、成員が互いの、あるいは共通祖先との系譜関係をはっきり知っているような集団はリネージとよばれるが、これに対し、伝説上の、あるいは神話上の共通祖先をもっているという信仰のみで、その共通祖先との、あるいは成員相互の系譜的関係がはっきりとはたどれないような集団を氏族またはクランとよんで、リネージと区別するのが普通である。
氏族は固有の名称をもち、しばしば特定のトーテムとも結び付いた集団で、父系の場合、子供たちは父親の氏族に所属し、氏族の成員権は、息子からまたその子供たちへと継承されていく。母系の場合、子供は母の氏族に属し、成員権は娘の子供たちへと継承される。しばしば氏族は、その内部に亜氏族やリネージなどの内部区分をもつ包括的集団となっているが、このような内部区分をもたない氏族もある。また氏族が胞族phratryや半族moietyなど、より高次の単位に組織されていることもある。
同じ氏族の男女の結婚を禁ずる外婚規制が広くみられ、同じ氏族の成員は、互いの系譜関係がたどれぬ場合でも、互いを血縁者とみなしている。氏族は共有財産をもったり、特定の領土単位と結び付き、比較的地理的なまとまりを示すこともあるが、多くの場合、広い地域に分散して全体としては地理的まとまりをもっていない。このような場合にも、成員相互には、もてなしや援助、互いを親族名称で呼び合うなどの形で、一種の連帯感が伴うことが多い。
[濱本 満]
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氏族
しぞく
clan
うじぞくともいう。同一の始祖をもつと信じられている人々の一団であり,出自集団の一種。氏族はその構成員の相互の系譜関係が明確でなく,同一の始祖から出たと信じられているもので,ときとして外婚単位となっていることもある。しかし,出自集団として系譜関係をたどるにも,また財産や地位の相続,継承にも,父系または母系いずれかの単系制が強調されており,さらに宗教的,経済的,政治的になんらかの排他性なり共同性が全成員の間に強調される自律的集団となっている。また氏族は,その成員の拡大につれて分節化する傾向がある。その場合,日常的な共同なり協力関係は分節化したそれぞれの亜氏族を単位とするようになり,もとの氏族は意識面での結合にすぎないものとなりがちである。
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し‐ぞく【氏族】
〘名〙
① 同じ祖先から出た
一族。一つの氏
(うじ)に属する人々。うから。やから。
※続日本紀‐宝亀元年(770)九月壬戌「又以下去天平勝宝九歳改二首史姓一、並為中毗登上、彼此難レ分、氏族混雑」
※
平家(13C前)七「曾祖父前陸奥守義家朝臣、身を
宗廟の氏族に帰附して、名を
八幡太郎と号せしよりこのかた」 〔
孫綽‐太宰郗監碑〕
② 特に、
未開社会の生活単位であった血族集団。共同の祖先を持つ諸家族で構成され、その祖先の
直系を
首長(氏の上)とする社会集団。うじ。
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氏族【しぞく】
人類学用語の氏族はclanの訳語である。共通の祖先を持つという意識で結ばれた出自集団であるが,その祖先は神話的・伝説的存在であり,成員らは具体的な系譜を明確に認識してはいない点でリネージとは異なる。また氏族はいくつかのリネージから構成される場合が多い。氏族は固有の名称やトーテムを用いることも少なくないが,それらは当の集団の統合を示す象徴と考えられている。
→関連項目氏|原始社会|部族
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デジタル大辞泉
「氏族」の意味・読み・例文・類語
し‐ぞく【氏族】
共通の祖先をもつこと、あるいは、もつという意識による連帯感のもとに構成された血縁集団。父系もしくは母系のどちらか一方の血縁関係によって結ばれている。「氏族社会」
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うじぞく【氏族】
日本中世の族縁呼称の一つであるが,史料の上では,一族,一家,一流などと混用されている場合が多く,はっきりした区別はまだつけられていない。しかし,一族,一家という族縁呼称がある一定の所領を共同知行し,その土地の地名をもってみずからの〈名字〉としている〈名字族〉という性格をもつのに対して,これら名字族がもとをただせば,藤原氏あるいは橘氏,大伴氏であるなどといわれる場合の側面を表現したものこそ,この氏族という呼称の本来のあり方だと考えるべきである。
しぞく【氏族】
〈氏族〉という日本語の多くは英語にいう〈クランclan〉に相当する用語として用いられているが,以下に述べるように英語圏にあっても類義語が数多くあり,clanだけが特徴的な社会組織を示す用語として用いられてきたわけではない。clanとは元来ゲール語のclannに由来する言葉であり,原意としてはスコットランド高地の人々がいうところの,〈世帯を単位とした非外婚的な双系出自集団〉を意味するものであった。しかし今日これを学術用語として用いる場合,原意とは異なり以下のような一連の特徴をもった社会集団とすることが常である。
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普及版 字通
「氏族」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の氏族の言及
【ゲルマン人】より
…なお古ゲルマン人のものの考え方や社会のあり方を推測する史料として北欧の〈エッダ〉や〈サガ〉,あるいはイングランドの《ベーオウルフ》などが挙げられるが,これらはいずれも後世の文学作品であるため,あくまで副次的なものとして援用されるべきである。 さてカエサル,タキトゥスなどの記述からうかがいうる当時のゲルマン社会は,原始未開の氏族社会でもなければ,遊牧民の共産社会でもなかった。それはすでに長い前史をもつ定着的な農耕と牧畜を主業とする社会であり,地理的な事情もあって北東部諸族の間では,南西部におけるよりも牧畜が重視されていた。…
【氏族制度】より
…ここに氏族制度というのは,家族よりも大きく,部族よりも小さい氏族とよばれる血縁的な集団が,多かれ少なかれ独立した経済的・社会的・政治的単位としての機能をいとなんでいる社会すなわち氏族社会の制度をさす。記録された歴史のはじまる古代国家形成のころには,すでに封鎖的・自給的な村落経済は交易経済に変わり,民主的な共同体は階級的な権力による支配のために再編成されつつあったことが,遺跡や文献の上からうかがわれるが,その以前の社会は一般にここにいう氏族を中心とする体制の上に立つものであったという推定が,多くの学者によってなされてきた。…
【親族】より
…狭義の親族概念に姻族を含めるか否かという問題は,もはや古典的議論に属するが,概念の適用にあたっては今日でも一致をみないし,また親族と出自とを体系のうえで区別して考えるのか,それとも双方の概念は論理的な因果関係にあるのかについても,定義上の不一致はいまだにある。さらに広義の親族概念にいたっては,リネージや氏族その他の社会集団に対しても拡大して用いられ,他方,親族関係は財産関係,政治関係,儀礼的関係などとも同一視されてきた。親族概念を生んだ西欧社会とは異なり,多くの非西欧社会においては,親族の社会関係と認められるような関係もけっして親族固有の関係とはいえず,各社会がもっている固有の民俗概念のなかでそれぞれの社会関係が形成されており,それを親族関係として翻訳し分析することは,西欧社会の概念を押しつけることにもなり,誤解の生ずる危険が大いにありうることになる。…
【中央アジア】より
…この遊牧集団を構成した家族の数は必ずしも一定せず,数家族の場合もあれば,50家族にものぼる場合もある。この遊牧生活の最も基本的な単位を,一応,氏族と呼ぶことができる。このような氏族が他のいくつかの氏族と連合して,さらに大きな遊牧集団を形成した場合,これを部族と呼ぶ。…
【中世社会】より
…これらの集団,またはその構成する界は,この時代なお流動的であり,かつ集団がいくつもの界に属するようなゆるやかなものであったが,これらはしだいに純化,統合,固定化の方向にすすみ,その過程で身分の枠組みを形成していったのである。
【寺院集団】
中世前期社会においては,鎌倉幕府の主従の基礎が惣領制であったことからもうかがわれるように,なお氏族的・族団的性格を色濃くのこす集団が支配的であったが,この状況のなかから族的結合の紐をすでに断ち切った集団を形成し,そこに仏法興隆を目的とした独自の世界を営んでいたのは仏教寺院の集団であった。 古代律令国家の寺院統制の弛緩,寺社勢力の強大化などの条件のなかで,自律的・自治的集団としての中世寺院が成立した。…
【リネージ】より
…しかし〈ラメージ〉は,父方・母方のいずれの系譜をもたどりうる選択的な出自にもとづいた出自集団であるという点で,単系出自集団であるとされるリネージとは,組織内容がことなっている。またリネージは,実際の系譜関係にもとづいた出自を共有するという点で,出自を共有するとはいっても実際に系譜関係をたどることができない,仮定された神話的・伝説的な祖先のもとに集団ないしはカテゴリーを形成している〈氏族〉とは対比されるのが通例である。氏族出自親族【渡辺 欣雄】。…
※「氏族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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