アビエチン酸(読み)あびえちんさん(英語表記)abietic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アビエチン酸」の意味・わかりやすい解説

アビエチン酸
あびえちんさん
abietic acid

三環式ジテルペンに属するカルボン酸ロジン主成分として存在している。マツ科植物の樹幹を傷つけると樹液を分泌し、しだいに固化して樹脂オレオレジンバルサムともいう)となる。これを水蒸気蒸留してテレビン油を溜出させ、残った樹脂酸混合物(コロポニイ、ロジンともいう)を過熱水蒸気で蒸留すると、ジテルペノイド樹脂酸(アビエチン酸)が結晶として得られる。水に不溶であるが、アルコール、ベンゼンクロロホルムに溶解する。ラッカーワニスの乾燥剤、乳酸酵母の成長促進剤に用いる。メチルエステルは、ワニス、ラッカー、リノリウム溶剤として使用される。カルシウム塩は、防水剤、皮なめし、製紙などに用途をもっている。

[佐藤菊正]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「アビエチン酸」の解説

アビエチン酸
アビエチンサン
abietic acid

C20H30O2(302.45).ジテルペンに属するカルボン酸.松やにから水蒸気および酸処理によって生じるロジンの主成分であるが,マツが分泌する生の樹脂に含まれているレボピマル酸が異性化したもの.板状結晶(エタノール).融点174~175 ℃.-116°(エタノール).λmax 241 nm(エタノール).酸自身はやや不安定で放置すると徐々に分解するが,Na塩にすれば安定である.水に不溶,希アルカリおよび有機溶媒に可溶.硫黄,セレンなどで脱水素すると脱炭酸を伴ってレテンを生じる.メタノールまたはグリセリンなどのエステルにしてラッカー,ワニスなどの塗料,金属塩にして紙のサイズ(インキのにじみ止め)に用いられる.乳酸,酪酸発酵の促進剤にも使用される.[CAS 514-10-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アビエチン酸」の意味・わかりやすい解説

アビエチン酸
アビエチンさん
abietic acid

ロジンの主成分をなすジテルペンカルボン酸で,その化学式は C20H30O2 である。融点 175℃の板状晶。粗製品は融点 85℃で,紙のサイズ剤として用いられる。メチルエステルは沸点 168~172℃ (0.5mmHg) の液体で,合成樹脂やゴム,ワニスなどの溶媒として用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のアビエチン酸の言及

【サイジング】より

…洋紙ではロジンサイズが最も多量に用いられている。ロジンサイズは松やにや松根油,クラフト排液中のトール油から得られるアビエチン酸およびその同族化合物が主成分で,カルボキシル基の一部はナトリウム塩となっている。これをパルプに付着させてサイズ効果を出すために助剤としてバン(礬)土(硫酸アルミニウム)を少量加える。…

※「アビエチン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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