樹液(読み)じゅえき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「樹液」の意味・わかりやすい解説

樹液
じゅえき

植物の樹皮を傷つけたとき、そこからしみ出してくる体をいう。樹液には、維管束に含まれる物質のほかに、特殊な分泌組織から分泌される樹、乳液などがある。分泌組織から滲出(しんしゅつ)する樹液は、植物が損傷を受けた部分の補修をする働きをもつといわれている。樹液は重要な工業原料としても広く利用されている。マツやモミの樹皮を傷つけておくと粘着性の液体である樹脂がしみ出してくる。これは樹脂細胞から分泌された物質が、樹脂道へ排出されたものである。このなかに含まれる揮発性の成分が失われて固まったものが脂(やに)で、化石となったものがこはくである。脂はアルコールなどの有機溶剤によく溶け、塗料などに利用される。また、こはくは宝石として珍重される。乳液は樹皮にある乳管や乳管細胞から分泌され、蓄えられたもので、多少ともゴム質を含むため、トウダイグサ科のパラゴムノキの乳液は弾性ゴムの原料とされる。マメ科のアラビアゴムノキの乳液をゴム糊(のり)に利用したり、ユキノシタ科のノリウツギを製紙糊として用いるのは、その粘着性を生かしたものである。マンゴーやパパイヤの乳液にはタンパク質分解酵素の一種であるパパインが含まれているため、消化剤とされる。ケシ科植物の乳液に含まれるアルカロイドはモルヒネなど麻酔剤の原料とされる。ウルシ科植物の樹皮から採取した乳液は漆の原料とされるが、この主成分であるウルシオールはかぶれの原因となる。サトウカエデの樹幹に穴をあけて採集した樹液は、維管束のうち、とくに篩部(しぶ)からしみ出してくるもので、2~5%のショ糖を含むため、これを煮つめて良質の糖蜜(とうみつ)シロップとする。

[杉山明子]

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精選版 日本国語大辞典 「樹液」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐えき【樹液】

〘名〙
① 樹皮などから分泌される液。ゴムの乳液など。
※若い人(1933‐37)〈石坂洋次郎〉上「地虫が鳴いて、樹液が匂って世界が私達を置てけぼりして何処かに遠足に行っちまったあの時間に」
② 樹木で、地中から茎を通って葉へ向かう液。水分のほか種々の養分が含まれる。
※雲のゆき来(1965)〈中村真一郎〉一「この老衰した幹は樹液を吸い上げる力を来年はなくしてしまうかも知れない」

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デジタル大辞泉 「樹液」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐えき【樹液】

立ち木の幹などから分泌する液。
樹木の中に含まれている、養分となる液。
[類語]樹脂やに松脂

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世界大百科事典内の樹液の言及

【木】より

…これは上で述べた中心のシンボリズムと分かちがたい場合もある(セフィロトの木,キリスト教における十字架,エデンの中心に立つ生命の樹など)。 インドでは,樹液は地母神の乳であり,すべての女性の乳房を満たし,すべての木を流れ果実をみのらせる〈ソーマ〉あるいは〈アムリタ〉である。古代西アジアでは大地の女神イシュタルの恋人は植物神たる木で,女神と木の聖婚(ヒエロス・ガモス)によって,大地は春の再生と冬の種子ごもりを繰り返す。…

【樹脂】より


[広義の樹脂]
 固形物が水の中に分散しているような樹木の分泌物では,水が精油ほど早くは揮発しないので,長い期間流動性がある。このため乳液,樹液などとよばれ,やにと日常的には区別されている。しかし固形物の化学組成からみると,はっきりした区別はしにくい。…

※「樹液」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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