内科学 第10版 「つつが虫病」の解説
つつが虫病(リケッチア感染症)
Orientia tsutsugamushiを保有する小型のダニであるツツガムシの幼虫がヒトを刺咬して感染,発症する.
患者は,近年全国で年間400例前後報告され,毎年死亡例も報告されている.発生時期はツツガムシ幼虫の活動時期と関係する.アカツツガムシの幼虫が発生する夏季に山形県,秋田県,新潟県などの河川流域で発生する風土病として古くから知られていた(古典型つつが虫病).戦後に患者が確認されたタテツツガムシとフトゲツツガムシによるつつが虫病(新型つつが虫病)は,ツツガムシが秋~初冬に孵化するため,この時期に北海道を除いた全国で患者が発生する.ツツガムシの0.1~3%が菌をもつと報告されている.また,フトゲツツガムシは低温に抵抗性であり,一部越冬して春に活動を再開するため,積雪期のある地域では春~初夏の患者が秋~初冬より多い傾向がみられる.しかし,媒介するツツガムシの分布は地域によって多様で,発生状況は地域によって異なる.さらに,つつが虫病はアジア地域にも広範囲に分布し,輸入感染症としても重要である.
臨床症状
発熱,刺し口,発疹が主要3徴候であり,大部分の患者にみられる.潜伏期間は6~18日(平均10日),39~40℃の高熱(稽留熱)を伴って発症し,特徴的な刺し口(eschar)が確認される.その後,体幹部を中心に発疹が出現,四肢に広がる.患者の多くは頭痛,悪寒,筋肉痛,全身倦怠感を訴える.また刺し口近傍の所属リンパ節,全身リンパ節の腫脹が半数の患者にみられ,咽頭発赤,結膜充血,比較的徐脈もみられる.重症化すると,播種性血管内凝固症(DIC),循環不全,呼吸不全,中枢神経症状,多臓器不全を呈し,死亡することもまれではない.
検査成績
白血球数の初期の減少(好中球比の増加,核左方移動)と後期の増加がみられることもあるが,ほぼ正常範囲であることが多い.血小板減少,CRP上昇,AST,ALT,LDHが上昇する.
診断
確定診断にはおもに間接蛍光抗体法(IFA)や免疫ペルオキシダーゼ法(IP)による血清学的診断が行われる.また,鑑別診断として日本紅斑熱を考慮する.刺し口(eschar),発疹部皮膚生検,投薬前の全血からPCRによるO. tsutsugamushi遺伝子の検出が早期病原体診断として有効であるが,実施施設は限られ,菌分離も臨床的実用性は低い.Weil-Felix反応はOXKが凝集陽性となるが,特異性と感度の問題から補助的診断と考える.
治療
適切な抗菌薬がない時代の死亡率はきわめて高かったが,早期に適切な治療を開始すれば予後は悪くない.テトラサイクリン系抗菌薬,クロラムフェニコールが有効であり,24~48時間以内に大部分の患者が解熱する.ペニシリン系やセフェム系,アミノグリコシド系抗菌薬は無効である.予防は発生時期に有毒ツツガムシの生息地域に立ち入らないこと,立ち入る際には,DEETを含有する忌避剤の使用,長袖長ズボンなどダニの吸着を防ぐような服装をし,作業後には入浴してダニを洗い流す.[安藤秀二]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報