ことわざと比喩

ことわざを知る辞典 「ことわざと比喩」の解説

ことわざと比喩

ことわざは、昔話民謡などとともに口承文芸フォークロア)と呼ばれ、昔から文字ではなく口頭で伝えられてきました。テキスト本文)が極端に短く、「糠に釘」などの五音、「猫に小判」「住めば都」の六音から、長いものでも「船頭多くして船山に上る」の一七音程度がふつうで、フォークロアのなかでも短さが際立っています。また、昔話には語り手がいて、民謡には歌い手がいますが、ことわざはそうした上手な人を特に意識することもなく、誰もが日常生活のなかで自然に耳にし、時には自分でも口にして、しだいに身につけていくものでした。

■ことわざは、フォークロアのなかでも地味なジャンルですが、実生活では、短いことばで状況を巧みにとらえ、鋭く批評し、重要な判断基準を示して大きな力を発揮します。特にコミュニケーションのなかでは、立場が違っていても相手の共感をえながら説得し、励ますことができます。ことわざの短いことばのどこから、そんな力が出てくるのでしょうか。

■たとえば、別れた男のことを悪しざまにいう女性に対しては「そんなに悪い奴じゃないよ」というより、「いろいろあったんだろうけど、坊主憎けりゃだね」と一言いうほうが効果的です。また、新プロジェクトの実施を前に思い悩む同僚には、取り越し苦労するなというだけでは説得力に欠けますが、「なに、やるだけやったんだから、案ずるより産むが易しだ」と声をかけると、反応が違ってくるでしょう。さらに、ついてないことが続いたときは、自ら「七転び八起き」を想起して気を取り直し、「思い立ったが吉日」と新たなことに取り組むことも、もちろんできるわけです。

■これらの例をあらためて見直すと、ことわざの威力の源は、主として比喩(たとえ)にあるのではないかという気がしてきます。行き詰まって停滞していた思考感性が、ことわざの比喩によって刺激を受け、発想転換をうながされるといってもよいでしょう。しかも、この比喩は、その場かぎりの下手なたとえ話ではなく、長年多くの人びとによって検証され、支持され続けたものだけに、説得力が感じられます。

■ちなみに「たとえに嘘なし坊主に毛なし」ということわざがありますが、この「たとえ」は古くから庶民の間で用いられてきた「ことわざ」の異称でした。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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