きき酒(読み)ききざけ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「きき酒」の意味・わかりやすい解説

きき酒
ききざけ

利酒、唎酒とも書き、「ききしゅ」ともいう。酒類の品質の良否を感覚により判定すること。嗜好(しこう)品である酒類の品質の鑑定は、人間の感覚による官能検査、すなわち「きき酒」によって行われている。今日、化学分析技術は非常に進歩したが、味、におい、色など人間の感覚にかかわる成分の種類や量と感覚(味覚、嗅覚(きゅうかく)、色覚)との関係が科学的に解明される日はまだ遠い。日本酒(清酒)の例でいえば、甘辛、濃淡味が、糖分と酸度の分析から、80%ぐらい説明できる程度である。熟練者による官能検査では、香味の総合判断は非常に速く、香味成分のバランス、特徴などの解析力も鋭い。また、おいしさ、上品さ、好き嫌いといった感覚は、やはり人自身が決めるものである。書画の評価に共通している。

 きき酒は品質鑑定に採用されているが、これだけにとどまらず、出荷する酒質の判断、市場における酒質の管理(日光による変質のチェックなど)、クレーム処理に、さらには香味の特色から、製造管理、たとえば製造工程や貯蔵工程での欠陥の指摘にも及ぶ。清酒のきき酒には、普通「ききちょこ(きき猪口)」という白磁の容器(180ミリリットル入り)を用いる。その底に青色の太い線で「蛇の目」が描かれているのは酒の光沢を見るためである。また、酒の色にこだわるのを避けるため、内側を黄色に塗った「めくらちょこ」か褐色グラスを用いることもある。きき酒の手順は、(1)酒の色、濁りの有無を見る。(2)においをかぎ、においの性質、強さを判断する。新酒か古酒か、また、老ね香(ひねか)、吟醸香(ぎんじょうか)や異常臭の有無を調べる。(3)味をみる。5~6ミリリットルくらいの酒を口に入れ、すするようにして舌の上で転がし、舌の全面で味をみる。(4)吐き出して、後味(あとあじ)もチェックする。(5)評点をつける。以上の手順は、慣れれば1点につき10~20秒くらいで終わる。評点は目的によって異なるが、格付け法(たとえば良否、○×式)、採点法(よさの程度で1~5点をつける)、2点試験法(どちらがよいか)、描写法(酒の長所・欠点を細かく記述する)がある。

 ワインの場合は、脚(あし)付きのチューリップ形の無色のグラス(約200ミリリットル入り)に50ミリリットルくらいのワインを注ぐ。(1)色 冴(さ)えを見る。色が退色したり褐変(かっぺん)していないかはたいせつな点である。(2)香り ブドウ品種の特徴があるか、異臭の有無。(3)味 酸味渋味甘味のバランスはどうか。その酒のタイプの特色を出しているかどうか。

 ビールの場合は、透明なグラスに1杯つぐ。(1)泡立ち、(2)色、(3)味、のどごしの爽快(そうかい)さ、まるみなどをみる。

 ブランデーブランデーグラスで、ウイスキーはチューリップ形のグラスを用いる。ともに色、香り、味を試みるが、とくにブランデーは香りが生命の酒であり、鑑定の重点もそこに置かれる。

 きき酒が上手になるにはトレーニングを重ね、よい酒をたくさんきき酒して覚えることであるが、酒の色、香り、味に分けて、その用語を覚え、自分の実感と結びつけ、その特色を明確に頭に入れ、尺度をつくることがたいせつである。

[秋山裕一]

ソムリエ

ソムリエsommelierとは、レストランで客の求めに応じて、注文した料理にあうワインなどの酒類を勧めるサービスをする専門家で、同時にそのレストランのワインの仕入れ、貯蔵管理も行う重要な役職である。ソムリエになるには、ワインの知識と豊富な経験が必要で、さらに日本ソムリエ協会の会員で、5年以上飲食サービスに従事し、筆記試験およびサービスときき酒の実技試験に合格しなければならない。

 また最近では、同様のサービスを日本酒で行う「きき酒師」「酒匠」という専門職も生まれてきている。

[秋山裕一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「きき酒」の意味・わかりやすい解説

きき酒
ききざけ

酒類の品質鑑定の手法をいう。日本酒の場合は特定の器に酒を入れ,色 (透明度も) ,味 (甘口,辛口の別,こくの有無なども) ,香りについて評価する。その結果とアルコール分,エキス分についての分析結果を総合して品質鑑定をする。酒税法上の清酒 (特級,1級,2級) の等級の審査方法としても利用されてきたが,酒税法改正における清酒級別制の廃止により,酒税法上での重要性は失われた。なお近年は,日本酒を中心とした食文化の形成や,飲食業界の活性化を目的として,企業や業界関連団体が中心となって,日本酒の専門知識をもった酒匠や,きき酒師などといった専門職的アドバイザーの資格認定制度などの普及活動が行われている。

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世界大百科事典(旧版)内のきき酒の言及

【官能検査】より

…一方,カラーテレビの鮮明さ,塗装外観,スピーカーの音質,織物の肌触り,乗用車の乗り心地,清酒や食品の味,化粧品の香りなどの品質特性は視・聴・触・味・嗅覚などの五感によってのみ判断することのできる心理的な品質特性であり,このような分野での品質管理のための検査として官能検査が行われる。官能検査という言葉は,明治時代から清酒の“きき酒”のことを公式的にこのように呼んでいたことに由来しているが,現在では広く工業社会にその意義が認められている。欧米諸国においてもワイン,チーズ,コーヒーなどの伝統的な食品産業において古くから行われ,organoleptic testと呼ばれていたが,現在ではsensory evaluationという用語の方が多く用いられている。…

※「きき酒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」