官能検査(読み)カンノウケンサ(英語表記)sensory evaluation

デジタル大辞泉 「官能検査」の意味・読み・例文・類語

かんのう‐けんさ〔クワンノウ‐〕【官能検査】

人間の感覚(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)によって、製品の品質を判定する検査。人の好みなど、機械では測定できない場合などに用いられる。官能試験

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改訂新版 世界大百科事典 「官能検査」の意味・わかりやすい解説

官能検査 (かんのうけんさ)
sensory evaluation

物理的,化学的な方法によらず,人の感覚器官を計測器として行う工業製品,食品などの品質検査。工業製品の品質管理では,物理的計測や化学的な分析が可能な特性について品質の維持,改良を行おうとする。一方,カラーテレビの鮮明さ,塗装外観,スピーカーの音質,織物の肌触り乗用車の乗り心地,清酒や食品の味,化粧品の香りなどの品質特性は視・聴・触・味・嗅覚などの五感によってのみ判断することのできる心理的な品質特性であり,このような分野での品質管理のための検査として官能検査が行われる。官能検査という言葉は,明治時代から清酒の“きき酒”のことを公式的にこのように呼んでいたことに由来しているが,現在では広く工業社会にその意義が認められている。欧米諸国においてもワイン,チーズ,コーヒーなどの伝統的な食品産業において古くから行われ,organoleptic testと呼ばれていたが,現在ではsensory evaluationという用語の方が多く用いられている。官能検査は心理的な検査であるが,推計学計量心理学の成果を取り入れ,理化学的な計測と同じように客観性を持たせようと努力するところに単なる主観的判断と区別される特徴がある。

官能検査は,人の感覚器官をあたかも計測器,分析機のように扱って製品検査を行うことを目的とする〈分析型官能検査〉と,製品の嗜好(好ましさ)を調べる〈嗜好型官能検査〉とに区別される。前者はガラス板のきずの発見,缶詰の打音による異常の発見,食品のにおいによる劣化の判定などに見られるように感覚器官そのものをセンサーとした検査であり,刺激の強さや品質の小さな差を弁別する目的で行われる。このタイプの検査は,五感による以外に測定方法が無い場合や,あっても複雑・高価になってしまうときに,人の判断は迅速・簡便であるので用いられる。また人の感覚の方が計測器より感度が高いこともある。一方,嗜好型の官能検査は,食品の味やにおいの嗜好性色彩調和,織物の感触の良否などのような〈心理的満足感〉を調べる目的で行われるものであり,研究開発の場面で行われる小規模なものと,直接消費者の嗜好を調査する目的で行われる嗜好調査,市場調査のような大規模なものとがある。いずれの場合も,嗜好的品質に及ぼす諸要因を探求し,より望ましい方向へ品質を改良することを目的としている。嗜好性は人の感覚による以外に測定することはできない。

 スープの塩辛さと,塩辛さがスープとして適当であるか否かは別であるように,快・不快という感情は刺激の強さとは並行していないからである。化学分析による食塩の定量は刺激の強さを測っているにすぎないのである。また人の感覚判断の特徴は,多数の刺激特性を同時に総合的に判定することができることにある。スープのおいしさはその中の多数の呈味成分の調和の上に成り立つものであり,このような調和のよしあしのような芸術的な価値判断は化学的手法で測ることができないところにも官能検査の必要性が認められる。

人の判断は不安定であり客観性に乏しいが,なるべく精度を高めるために温湿度,照明を管理し静寂な環境のもとで検査を行うこと,検査員(panel,judges,subjects)に訓練を施して判断基準を統一すること,あらかじめ試料についての偏見を抱かせないために盲試験blind testを行うなどの対策が必要である。また三点試験法triangle test,一対二点試験法duo-trio test,一対比較法paired comparisonなどの官能検査特有の方法や,感覚の強さや嗜好の程度を計るための嗜好尺度hedonic scale,評点尺度rating scaleなどの心理尺度を用いることによっても客観性を高めることができる。これらの結果は分散分析法や多変量解析法と呼ばれる統計的手法を用いて分析されることが多い。

今日においても伝統的な醸造工業では不可欠の手法となっているが,農産物規格における格付けの中にも取り入れられている。調香師による香料の調合も古くから行われている。最近の官能検査を用いた研究を列挙すると,溶接部分の評価,塗膜の仕上がり評価,加工面の粗さの測定,トラックの操縦特性,ジュースの成分と嗜好性,ゼリーの物性と品質,ヘアドライヤーの騒音解析,病院外来待合室の快適性,街路空間のイメージというように幅広い分野で官能検査が利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「官能検査」の意味・わかりやすい解説

官能検査
かんのうけんさ
sensory evaluation

人間の感覚(視・聴・触・味・嗅(きゅう))によって、製品の品質を判定し、一定規格に合致するか否かを決めること。物理化学的計測器が発達するにつれて、いままで感覚で査定していた特性も、しだいに機器測定にゆだねられるようになる。それにもかかわらず、現代でも感覚を用いた査定・検査が頻繁に行われているのは、(1)適切な機器がいちおうは開発されているが、時間・費用・手間がかかりすぎるために、人間に依存する場合、(2)適切な機器が未開発なため、感覚による検査に頼らざるをえない場合、の2種ある。前者の代表は色であり、後者は味・においのほか、視覚的デザインを含む。機器測定のほうが好まれる基本的理由は、人間の感覚の個人差が大きすぎること、日間変動・時刻内変動が大きいこと、系列効果・位置効果などによって攪乱(かくらん)されやすいこと、などであるが、これに対して官能検査を弁護するためには、次のような留意が必要である。

 被験者(パネルpanelという)の選抜と訓練により信頼性を高めること、確率化によって嘘(うそ)・偏りを除去するとともに、実験計画法を採用して、各種の心理効果を統計的に除去するよう配慮すること、などである。

 閾値(いきち)や等価値の測定も、官能検査の一部に含まれるが、心理学・生理学において、これらの量を扱う場合には、人間という生物が最上の条件下で達成しうる限度を問題とするのに対し、工業への応用場面においては、各種攪乱要因の参与下で許容しうる限界を求めることが主題となる。

[吉田正昭]

『日科技連官能検査委員会編『新版官能検査ガイドブック』(1973・日科技連出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「官能検査」の意味・わかりやすい解説

官能検査
かんのうけんさ
sensory evaluation

心理学用語。人間を計器に見立てて,その感覚機能に依拠して行われる食品,香料,工業製品などの諸検査。あるいは人間の計器としての感覚特性を研究するために用いられる諸検査をさす。工業製品の品質設計に適用されるが,物理化学的測定と比べて官能測定には個体差があり,疲労などの影響が出てくるといった難点がある。反面,練習によってその性能が高められるという特性があり,精度や費用の点で物理化学的測定に代りうる場合も少くない。

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栄養・生化学辞典 「官能検査」の解説

官能検査

 官能検査法ともいう.人間の官能によって食品を評価する方法.

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