うたて

精選版 日本国語大辞典

うたて

[1] 〘副〙

① 物事の度合が異常に進んではなはだしい意を表わす。なぜか非常に。ますますひどく。いよいよただならず。

※古事記（712）下「宇多弖(ウタテ)物言ふ王子(みこ)ぞ〈宇多弖の三字は音を以ゐる〉」

※源氏（1001‐14頃）夕霧「うち笑ひて、うたて心のままなるさまにもあらず」

② 気持の負担となり、気に入らない意を表わす。情けなく。つらく。いとわしく。いやなことに。

※古今（905‐914）雑下・九三九「あはれてふことこそうたて世の中を思ひ離れぬほだしなりけれ〈小野小町〉」

③ 否定的な方向に進んだ異様な気持を表わす。気味悪く。変に。ろくでもなく。

※土左（935頃）承平五年二月一五日「このあるじの、またあるじのよきを見るに、うたて思ほゆ」

[2] (形容詞「うたてし」の語幹) 情けない。なげかわしい。気に入らない。

(イ) 述語に用いる。

※落窪（１０Ｃ後）一「あなわびし、あなうたて」

(ロ) 多く「の」を伴って連体修飾語に用いる。

※源氏（1001‐14頃）紅葉賀「ことしもあれ、うたての心ばへや」

[3] 〘形動〙 情けないさま。困ったさま。

※宇治拾遺（1221頃）二「それにはかくやはせんずる。うたてなりける心なしのしれ者かな」

[語誌](1)原形は副詞の「うたた」だが、古くから形容詞的な意味を含み、中古以来、「うたてあり」「うたてし」の形を派生した。「源氏物語」では、「ゆゆし」「心憂し」「恐ろし」などの語とともに用いられ、対象をうとましいものとして拒否・警戒する気持を表わす。
(2)「うたた」が状態の変わりゆきのはなはだしいことをいうのに対して、「うたて」は、程度や量の増大のはなはだしさをいい、さらに不快な気分に傾いている点に相違がある。

出典　精選版 日本国語大辞典