NAFTA再交渉(読み)なふたさいこうしょう

知恵蔵 「NAFTA再交渉」の解説

NAFTA再交渉

米国、カナダメキシコの3カ国間で結ばれ、1994年に発効した北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement、NAFTA)の取り決めなどを見直すために、2017年8月から3カ国間で行われてきた交渉。交渉は難航したが、18年8月27日に米国とメキシコとが大筋合意に達し、9月30日深夜(日本時間10月1日)に米国とカナダとの間で妥結した。協定名称は、「米国・メキシコ・カナダ協定(the United States-Mexico-Canada Agreement、USMCA)」に変更される。
北米地域内で貿易や投資の自由化を進め、経済発展を促そうと、1989年に米国とカナダの間で締結された協定に、94年、メキシコが加わった。域内の部材を一定の割合で使えば、その製品にかかる関税をゼロとする「原産地規則」などを設け、2008年までにほとんどの域内の関税を撤廃した。NAFTAの域内総生産(GDP)は約21兆ドル(約2350兆円)で、欧州連合EU)をしのぐ経済規模となっている。
NAFTAによる関税撤廃の恩恵にあずかろうと、日本の自動車メーカーなど多くの企業が、人件費の安いメキシコに生産拠点を設置して米国市場向けの製品を生産、輸出するようになった。これにより、メキシコから米国への輸出が増加し、米国の対メキシコ貿易赤字が増大したほか、米国内の製造業で働く労働者の不満が募っていた。
そして2017年、NAFTAの見直しを主張するドナルド・トランプが米大統領に就任したことで再交渉の機運が高まり、17年8月から交渉が進められていた。当初は17年内の合意を目指したが、焦点の一つである原産地規則について、域内部品の割合の引き上げや米国製部材の50%以上使用などを求める米国に対し、自国の自動車関連産業を守りたいカナダとメキシコが反発し、交渉は難航した。また、米国は、協定で定める貿易紛争の解決の枠組み「紛争解決手続き」の廃止を求めたが、カナダは反対していた。
しかし、18年7月のメキシコ大統領選で当選し、12月に就任予定のロペスオブラドールがNAFTAの早期合意への意欲を示したことから、米トランプ政権は、まずメキシコとの協議を進める方針に転換両国は18年8月27日、原産地規則で関税撤廃の対象となる域内で調達する部品の割合を現行の62.5%から75%に引き上げることや、部品の40~45%を時間当たり賃金が最低16ドル(約1800円)の工場で生産すること、鉄鋼やアルミニウムなどで米国製の部材の利用を増やすことなどで「予備的合意」に達した。更に、米政権は残るカナダとの2国間交渉を進め、交渉期限としていた18年9月30日の深夜(日本時間10月1日)に妥結した。
新しい協定では、カナダとメキシコが米国へ輸出する自動車に、それぞれ年間260万台の枠を設ける。上限を超えた場合は、25%の関税が課される。自動車の部材でも、カナダから米国への輸出品に年間324億ドル、メキシコからの輸出品に年間1080億ドルの枠を設定することとした。これらの輸出枠は、現行の輸出水準よりも高めとなっており、メキシコやカナダに生産拠点を移してきた米国のメーカーへの配慮が見られる。
新協定の妥結により、NAFTAを前提として北米に進出した日本の自動車メーカーは、生産体制の見直しが迫られることになりそうだ。

(南 文枝 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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